本研究では,東海地域の有力卸売企業の伊藤伊の事例を中心に,卸売企業が「問屋不要論」の予測に反して,いかにその社会的役割を維持し続けてきたのかについて経営史的方法によって検証した。伊藤伊は,1980年代以降のメーカーと成長著しい小売勢力との垂直的な競争のなかで,広域化と従来の2次卸相手の取引から小売直販への転換を遂げた。その過程で,蓄積された財務力や,経営者のリーダーシップのもとでなされた組織,情報・ロジスティック・システム,マーチャンダイジング・システムの革新が基盤となって,営業面の交渉力を充実させ,規模,範囲,速度の経済性の優位を保ち得たことを明らかにした。
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