本年度は、申請時には論文としてまとめる作業に充てる事になっていたが、諸事が重なり資料収集とデータの分析に終始してしまった。しかしながら、インドの中央銀行研究を進める過程で周辺の外国為替銀行研究で新たな発見があり、そちらの方が先に論考としてまとめることができた。そのため本年度はその成果を発表することが先行する結果となった。 データ分析としては、インド紙幣局の年次報告書の分析と並行して、当時のインド帝国銀行の関係者の個人文書の分析、インド準備銀行設立時のインド省とインド総督府の間の往復書簡の分析を行った。内容としては、これまでBagchiが明らかにしてきた事例を追跡する事になったが、その解釈については新たな論点が見出された。この点については2017年度にワーキングペーパーのかたちで公表したいと考えている。大雑把に言えば、Bagchiの解釈がイギリスの植民地支配の観点に重きを置いているのに対して、インドの農村部のインフォーマルな金融制度と銀行制度をはじめとするフォーマルな金融制度の相互補完的な仕組みを確立させるために中央銀行をどのように位置付けるべきかと言う点も重要な論点として議論されており、むしろ独立後のインド金融を考察した場合、その連続性の観点からこちらの側面もしっかりと議論するべきと考える。この論点にしっかりとフォーカスを当てて議論して行く。 本年度の成果としては、上記のデータ分析の他にはインド中央銀行史研究の昨今の研究動向を、インド経済史やアジア経済史という大きな枠組みから再考したことにある。これらは本プロジェクトの初年度にも行ったが、研究を進めて行く上で先行研究がイギリスの植民地支配の枠組みに強く規定されていることが改めて認識されたことから、改めて議論を再構築する事に努めた。この点も近日中にワーキングペーパーのかたちで公表したいと考えている。
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