研究実績の概要 |
イングランド銀行総裁アドバイザーのニーマイヤー卿(Sir Otto Niemeyer, 1883-1971年)は、カリスマ的総裁ノーマン卿(Lord Montagu Norman, 総裁1920-1944年)の右腕として世界各国に派遣され、訪問国の金融・財政制度改革にあたった。特に1930年代においては、大不況にあえぐラテン・アメリカ諸国やイギリス自治領諸国を訪れ、中央銀行の創設を骨子とする金融制度改革に邁進した。最終年度においては、英国公文書館(The National Archive)所蔵の大蔵省文書(Treasury Paper)を主に使用し、第二次大戦勃発時にイングランド銀行とアルゼンチン中央銀行間で締結された支払協定(Payment Agreement)に関する研究を行った。その中でニーマイヤー卿が非常に大きな役割を果たしたことが明らかとなった。具体的には以下の通りである。 第1に、ニーマイヤー卿は1935年のアルゼンチン中央銀行創設時において、中央銀行草案を作成したこと、そして、その後、同行初代総支配人プレビッシュ(R.Prebisch)との関係を通してアルゼンチン中央銀行の金融政策に対し一定の影響力を及ぼしたことである。 第2に、以上のようなアルゼンチン中央銀行との関係を土台として、第二次大戦勃発と同時にイングランド銀行は同行との間に支払協定を締結したことが明らかとなった。この協定の下で、イギリスはアルゼンチンから重要な戦時物資である食肉を、イングランド銀行にあるアルゼンチン中央銀行名義の勘定に記帳するだけで調達することが可能となった。ニーマイヤー卿は1930年代以降培ってきたアルゼンチン中央銀行との関係を通して、アルゼンチンから金融的支援を得ることに大きく貢献したのである。
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