平成29年度の研究目的は、平成28年度の研究成果で新たに見出された理論的課題を深耕しつつ、経験的研究を拡張していくという当初の研究計画を一層発展させる研究に費やされた。 具体的には、既に単著『現場の情報化』で取り上げてきた社会物質性概念について、実在論の議論を踏まえた理論的深耕を行い、『経営学史学会年報第二十四輯 経営学史研究の興亡』にて論文を公刊してきた。社会物質性概念は、アクター・ネットワーク理論の類似概念として引用されるものであるが、制度派組織論や社会構成主義を援用した『計算と経営実践』との差別化にも繋がることになる。その要点は、古くから繰り返史論じられてきた存在論と認識論の対立が観察装置(apparatus of observation)によって局所的に切り取られる因果関係(エージェンシャル・カット)であるという、量子物理学者カレン・バラッドの言葉に要約されている。 経験的な研究としては、バラッドの言葉に基づき、放射光施設という観察装置を利用した画期的なエコタイヤ開発を実現した住友ゴム株式会社を分析対象として、観察装置を起点としたサイエンス・イノベーションの可能性を検討してきた。その成果は、組織学会の統一論題「ビッグサイエンスの実践と産業イノベーション」における、理化学研究所を中心とした物理学者とのテーマセッションの中で報告された。 他にも、最終年度にあたる本年は、これまでの議論を総括したレビュー論文を共同研究者とともに纏めており、また指導する大学院生との共同研究の成果としても既に投稿している。
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