研究課題/領域番号 |
25380477
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
露木 恵美子 中央大学, 戦略経営研究科, 教授 (10409534)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 事業化 / 六次産業化 / ネットワーキング / バリューチェーン / 三陸漁業生産組合 / 由比港漁協青年部 / 資源管理型漁業 / 場 |
研究概要 |
平成25年度は、第一次産業において六次産業化に成功した事例の文献レベルでの収集と並行しつつ、被災地における漁業の事業化を研究対象として、継続的に定点観察することを目的に、調査研究活動を行った。 被災地については、岩手県大船渡市、陸前高田市の漁業者の活動を継続調査した。同時に、比較対象として資源管理型漁業の成功例と言われる由比港漁協青年部の活動を、漁協を主体とした漁業者による事業化の事例として継続調査した。 被災地で漁業をめぐる事業化活動は、一部の漁業者(三陸漁業生産組合、南三陸ホタテ組合他)による継続的な活動を定点観測している。たとえば、三陸漁業生産組合によるインターネットを使った鮮魚の販売や、南三陸ホタテ組合による首都圏他への営業活動などである。また、漁業者間の連携活動においても、震災をきっかけとしてつながりができた漁業者間のネットワーキング(先の三陸の2地域と由比港等)がみられ、新たな事業の芽ができつつある。 一方、由比港漁協青年部の活動については、漁業者主体の加工・製造・販売活動であるり、漁協青年部を基盤とした組織ぐるみの活動である。主体となる青年部員は、船元や船元の子弟であり、漁獲物の付加価値を高め、全体の収益を高めるための本格的な六次産業化の事例である。由比港漁協では、漁協直売所や食堂など漁業者自らの販売活動を積極的に行ってきたが、青年部による新たな商品の開発と販売は、さらなる効果を生んでいる。具体的には、活き桜えびの開発と販売、さらに、水揚げしたすぐの桜えびを加工した漁師の沖漬け、定置網漁業で低価格で販売されている魚を使った練り製品など、桜えびのブランド価値を高める活動と、水揚げされた鮮魚の付加価値を高める活動の2つの要素を持っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
被災地においては、事業化の進行は模索段階である。三陸漁業生産組合においては、組合員の船が全船そろったのが平成26年3月であり、平成26年度から本格操業の見込みである。事業活動については、漁業者と地元の仲買(三陸とれたて市場)が連携して事業を展開している。浜のお母さんたちによる惣菜の開発や販売は、被災地を支援したいという志をもった埼玉にある飲食店(起喜来や)という連携先を得て、首都圏の販売チャネルを確保している。漁業者の連携については、先に述べた由比の漁業者との連携のみならず、他地域の漁業者とも連携する動きがあり、被災を契機に今までとは異なる、さまざまな地理的に離れた漁業者間のネットワーキング(おもに販売協力や経営ノウハウの共有)といった新たな展開も観察された。 一方、比較対象地域である由比港漁協青年部における六次産業化は、漁業者による漁獲物のブランド価値の向上、さらには、漁獲物の付加価値を高めることで全体の収入を上げる効果を生んでいる。その活動は、今までの漁業者と仲買加工業者との対立構造を変える可能性を孕み、漁業者による六次産業化の枠組みを大きく超える展開をみせている。 研究チームは、それらの活動に入り込んで調査を進めることができているため、以上の達成度とした。
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今後の研究の推進方策 |
当初の目標において、平成26年度は、複数の個人や集団が連携しながら事業を立ち上げる地域ネットワーキングという視点で研究活動を行うとした。予定通り、インタビュー調査や参与観察を通して、個別の事業者や漁業生産者による起業活動における場の生成やネットワーキングにおいて、地元の事業会社、漁業協同組合、市や県などの行政組織、地元に拠点をおくNPOといった異なる志向性をもつ活動主体が、どのように連携していくのかのプロセスを追う予定である。 被災地における事業化(6次産業化)については、引き続き、岩手県大船渡市起喜来地区、陸前高田市泊地区の漁業コミュニティについて定点観測を行う。現地でのフィールドワークを7月と下半期に1回程度行う予定である。 一方、比較対象地域である静岡県の由比港漁協については、漁業者による6次産業化を越えた仲買、地元飲食店等との地域ぐるみの変革の萌芽があり、事業化とネットワーキングの先進的なモデル事例として注目されるため、引き続きフィールドワーク(参与観察)を行う。特に、事業化とネットワーキングの背景にある社会制度(プール制)について詳細な調査を実施したい。 その他の比較対象地域としては、富山県新湊漁協(白えび)の調査を実施する。昨年度は訪問できなかったので、今年度は現地訪問を含めて調査を実施したいと考える。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度については、比較対象地域である由比港漁協青年部の活動について、現地でのフィールドワークを積極的に行い、のべ40名近くの関係者についてインタビューを実施した。インタビューについて正確を期すること、今後のデータをとして保管するためにテープリライトを外部業者に依頼した。当初よりインタビューが多くなったため、リライト費用が多く発生したので30万円を前倒ししたが一部未使用分が残った。 平成26年度については、昨年度のようなインタビュー調査は行わない予定であるので、テープリライトの外注費用は減る見込みであり、予算内に収まると考える。
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