研究課題/領域番号 |
25380477
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
露木 恵美子 中央大学, 戦略経営研究科, 教授 (10409534)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ネットワーク / 社会関係資本 / ソーシャルキャピタル / 六次産業化 / 漁業 / 場 / 経営資源 / 地域創生 |
研究実績の概要 |
3年目の課題は、2年目の課題である「複数の個人や集団が連携しながら事業を立ち上げる地域ネットワーキング」の解明に引き続き、それらのネットワークを使っての「経営資源の獲得と活用」について研究活動を継続した。具体的には、リサーチサイトにおけるフィールドワークの継続と研究成果の発表を主軸に活動を行った。リサーチサイトの訪問については、被災地における事業活動の進展に関する調査(岩手県大船渡市、陸前高田市)を継続すると同時に、特に事業化において著しい進展のみられる由比町の桜えび漁業について集中的に訪問し、複数の関係者(漁業者、仲買業者、地域の飲食店等のステークホルダー)に対するインタビュー、資料収集、乗船調査等の参与観察を行った。 3年目の調査で明らかになったのは、経営資源の獲得と活用については、三陸においては震災を契機に、新たな経営資源(寄付金やさまざまな支援の申し出、物品の提供等)が獲得され、さらに新たなネットワークから、新たな販路が開拓され、新しい商材が生まれたことである(具体的には、未利用資源であったカラス貝(ムール貝)等)。特にSNSを使った通販事業から新たな販路が生まれたことは興味深い。由比町においては、青年部が外部との連携によって生まれた商材である桜えびの沖漬けや漁師魂(練り製品)の製品としての完成度の向上、また、安定的な販路の獲得などが顕著であり、年間売り上げが2千万円規模になっている。活き桜えびの宣伝効果も高く、多方面にわたって青年部の事業化活動の成果が出ている。 ネットワークおよび社会関係資本の観点からは、各事例におけるキーパーソンが内部と外部の結節点(ノード)となり、弱い紐帯を通して異なるコミュニティをブリッジすることで、内部集団に有益な経営資源をもたらしてきたが、今後は、それが経営資源として機能し続けるために必要な維持を誰がどのように行うかが課題になると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で記述したように、3年目については、リサーチサイトへの調査は海士町を除き概ね実施できた。 三陸への訪問は、12月の1回のみであったが、先方が東京に来たときに面談し情報収集するなど、現地訪問以外にも調査を実施した。三陸漁業生産組合の販売先(連携先)は東京のレストランチェーンなので、実際に販路拡大フェーズに入ったことがうかがわれる。 一方、由比町においては、桜えびの沖漬けについては、地元の加工業者に特殊な装置を使っての一次加工(桜えび一匹一匹をバラバラに凍結するIQ冷凍)を依頼したことで、製品の品質が著しく向上した。今まで敵対関係にあった地元の加工業者と連携することができたことも、地域における社会関係資本の拡大としては大きな成果である。また、広報機能として非常に大きなインパクトのある活き桜えびについては、地元の飲食店の女主人が販売に尽力しており、地域の特産品サイト(47クラブ)で販売をしており、日本ギフト大賞・静岡賞を受賞した。さらに、青年部では活き桜えびを入れている水槽を活用して、将来的には不可能と言われた桜えびの養殖に着手しようとしている。この事業は、地域の主力産業である桜えび漁業において、非常に大きなインパクトのある事業である。 3年目の課題であった研究成果の発表については、2つの学会で発表を行った。一つは、組織学会(2015年6月)の研究発表大会において「漁業の六次産業化におけるネットワーキングと社会関係資本に関する研究」というテーマで発表を行った。もう一つは、タイのバンコクで行われた国際学会APCBM(Asia-Pacific Conference on Business and Management)において、New Business Creation through Networking and Building Social Capital in Fishermen’s Communitiesというテーマで発表を行った。
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今後の研究の推進方策 |
2016年度は、昨年度に実施できなかった以下の点について実施する予定である。 1つは、海外の研究会での研究発表である。現在、内定しているのは8月に開催されるUniversity of St. Gallen における研究会にての発表である。この研究会の主催者であるUniversity of St.GallenのSwiss Research Institute of Small Business and Entrepreneurshipは、ドイツ語圏のビジネススクールとしてはトップクラスである。また、この研究会は、招聘者のみで行われるクローズドな学会で、主に起業や中小企業研究における研究者が全世界から集まる。同研究会で、これまでの研究に関する報告を行う予定である。また、研究会終了後に、同研究センターとの共同研究について話し合いを行う予定である。 2つ目は、学会誌等への投稿である。現在、組織科学(組織学会)およびJournal of Business and Economics(USA)への投稿を行い審査結果を待っているところである。本研究の研究成果として今後も複数の学会誌に投稿を予定しており、先の投稿もその一環である。 3つ目は、これまで3年間の研究成果と関連して、第一次産業における事業化と地域創生に関する研究会(ミニシンポジウム)を開催する予定である。 以上が、3年目に積み残した課題であり、延長申請をした理由であるため、着実に実施したい。また、リサーチサイトへの訪問も継続する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2015年度までの現地調査はほぼ終了したが、さらに事例研究を精緻化するために追加調査を行いたい。また、2016年8月にスイスのUniersity of St.Gallenで開催される研究会に招待されているため、学会発表を行いたい。また、研究成果の発表として海外のジャーナルに投稿したい。
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次年度使用額の使用計画 |
1.リサーチサイトへの訪問調査(三陸、海士町)への旅費・交通費 2.University of St.Gallen における研究会への参加費ならびに旅費・交通費 3.海外のジャーナル投稿のための費用
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