研究課題/領域番号 |
25380484
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
大月 博司 早稲田大学, 商学学術院, 教授 (50152187)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 組織コントロール / 組織ルーティン / 限定合理性 / ディスコース分析 / フィールドワーク / ビジネス・リスク / 情報ネットワーク化 |
研究概要 |
本研究は、従来の組織コントロール研究の成果を踏まえ、企業の海外進出に伴って生じる組織コントロール問題について、その解決の糸口を組織ルーティンのダイナミック性にあると想定した上で、近年注目されつつあるディスコース分析も用いながら、海外進出日系企業の組織コントロールのあり方および組織ルーティンとの関係の解明を目的とするのものである。 そこで過年度は,上記の研究目的を実現するため,関連の文献調査と資料収集により理論的研究をスタートさせた。具体的には、文献・資料によって既存の組織コントロールと組織ルーティンに関する研究、ディスコース分析の可能性とその方法ばかりでなく、理論枠組みの整合性を損なわないような観点から、今後のヒアリング調査、フィールドワーク調査の準備も行った。そして、海外進出日系企業の製造業と流通業の分野における海外展開の歴史的経緯を確認しつつ、現況の問題点を明らかにするため,各業界,各社の置かれた状況の把握,課題事項の論点整理を行った。特に組織コントロールについては、理論モデルの再構築や調査方法の確認を図り、次年度以降の調査研究が円滑に進めるように論点の明確化に励んだ。 その際、情報ネットワーク化の進展による組織コントロールに対する影響を考慮した。情報技術の革新が予想以上にスピードアップしたため、ますます「限定合理性」というコンセプトの妥当性が再認識され、組織間のコントロールのあり方が新たな問題であることが判明した。情報ネットワーク化時代への突入は、情報入手の自由度が増大して組織の行動範囲の限界が克服されるといわれるが、その反面、ネットワーク依存の度合いをますます深め、自由が制約されるというパラドクシカル側面を顕在化させつつある。組織コントロールのあり方についての論点整理がますます必要である所以である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで研究を順調に進められたのは、組織コントロールと組織ルーティンに関するレビュー研究をベースに、海外展開する日系企業の組織コントロールのあり方を理論的・実証的に分析を行うための準備作業が大半だったからである。実際には、組織ルーティンの安定と変化のダイナミズムを前提に、本社が現地子会社をどのようにコントロールしているかについて、(1)海外展開する日系企業の組織コントロールの構造分析、(2)その理論的分析、(3)ディスコース分析,を通じた研究を進めるの足掛かりが得ることができた。つまり、製造業と流通業の事例を中心に予定された実態調査を進めるため、海外での予備調査を含め,ほぼ予定通りに進んでいる状況である。 さらに具体的にいえば,Becker(ed.)(2008) Handbook of Organizational Routines で集約された多様な組織ルーティン研究をベースに、組織の効率性探求と創造性探求を同時に実現できる組織のコントロールについて、従来には見られない新たな理論モデルの構築とその実証可能性が試みられたのである。その成果の一部は,既に「経営者の意図的行為と組織能力」『早稲田商学』第438号で公表済みである。 近年、周知のようにわが国企業のASEAN への事業展開が加速している。こうした背景のもと、製造業と流通業における組織コントロールのあり方を構造分析,ディスコース分析によって解明するとともに、本研究の最大の関心事であるコントロール実践の要請に適う理論的フレームワークの構築がますます求められるようになっている。そのため、各種報告書を始め,Academy of Management Reviewなど欧米の学術誌を中心にペーパーを収集し、文献・資料研究とその整理が順調に進められたのである。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの文献をベースにした理論的研究を踏まえ、さらに、情報ネットワーク化の進展および組織を取り巻く環境変化がもたらす効率性への影響をも考察対象に入れ、組織コントロールのあり方について、とりわけ海外進出している日系企業について、ダイナミックな組織ルーティンの観点を基軸に製造業と流通業を中心に調査を進める。アジア進出の企業組織においては、情報ネットワーク化の進展が及ぼす影響は急激なものであり、組織コントロールのあり方について、欧米先進国の場合と異なる大きな課題を担っている。そこでこの点を踏まえて、ダイナミックな組織ルーティンとの関連を分析していく必要があろう。 内容的には、情報通信技術の革新によって、競争優位性の要因として「スピード」が重要視され始めている点と、環境変化による「ビジネス・リスク」に着目し、効率性とその実現を図る組織コントロール・メカニズムが新しい動向の中でどのような変貌を遂げるかを探求する。そして、各業界2~3 社程度を選定し,ディスコース分析を志向したヒアリング調査,およびフィールドワークを行っていく。たとえば、パナソニック、日立、セブン・グループ、イオン・グループ等が研究対象として挙げられ、本年度は製造業を主たる対象として調査を実施、次年度は流通業を対象に実施する予定である。なお、この間の研究成果については、日本経営学会やアメリカ経営学会(AOM)など、国内外の学会を通じて積極的に報告の機会を利用するとともに,学術雑誌に研究成果を公表し,最終的には、3 年間の研究の集大成として、『海外日系企業の組織コントロール(仮題)』としてまとめあげることを目標に研究を進めることになっている。
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