本研究の目的は,わが国企業を取り巻く外部環境の変化,及び,企業内部の環境の変化が,企業の資金調達行動に及ぼす影響を実証分析し,国際的な規模で進展する環境の変化に適応することができるような財務政策をデザインするというものである.この目的を達成するために,次の2つの具体的なテーマを設定し研究に取り組むことになった. 1つ目は,企業はさまざまな経営戦略を行っているが,その中でも「(製品)多角化戦略」と「選択と集中」という2つの戦略に焦点を絞り,それら2つの戦略が企業の資金調達行動(資本構成)にどのような影響を及ぼしているのかというテーマである.2つ目は,製品・サービス市場における企業間の競争の程度が,流動性の保有比率にどのような影響を及ぼしているのかというテーマである. 1つ目のテーマから得られた結果は,次のようなものである.企業は(製品の)多角化を負債という手段で進めようとする.したがって,多角化の程度が,同業他社のライバル企業より,進むほど負債比率は高くなる傾向がある.しかしながら,企業は,多角化と同時に「選択と集中」という多角化とは相反する戦略をも進めようとする.この時,同業他社のライバル企業より,多角化の程度の進んでいる企業が「選択と集中」を推し進めようとするほど,負債を減らそうとする傾向がある. 2つ目のテーマから得られた結果は,次のようなものである.製品・サービス市場における企業間の競争が激しくなるほど,流動性を保有しようとするインセンティブは高まる.しかしながら,その企業の市場支配力が高まるほど,流動性を保有しようとするインセンティブは弱まることになる. 以上の実証分析の結果から得られる結論は,1.企業の経営戦略には,その戦略に適合した資金調達手段が存在する 2.企業の流動性は,企業間の競争環境から大きな影響を受けるという2点にまとめることができる.
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