本研究では、組織内外で組織成員が主体的に学習する場としての「実践共同体 (communities of practice)」の形成・運営について、介護施設の事例研究を中心に実施してきた。本研究の主要なリサーチサイトである介護施設に加えて、企業組織や地域レベルでの実践共同体の事例研究を実施し、成功事例から、複数の実践共同体とのつながりがより包括的な上位の実践共同体を形成し、個々の実践共同体との相互作用を行うことで、学習がより促進されることがわかった。それは個々の企業レベルから複数の企業、地域レベル、そして全国レベルの実践共同体と重層的に形成され、それが技能の形成や広範な知識の獲得、情報交換、人的ネットワークの形成といった、実践共同体の学習スタイルを多様に促進することがわかった。合わせて継続的に実施している実践共同体の概念研究では、「学習する組織」研究、活動理論、コミュニティ論、「サードプレイス」論、ラーニング・コミュニティ研究といった多様な関連分野の研究をレビューすることで、実践共同体と他概念の差異化を行うことができた。あわせて他概念との共通点を見出すことで、実践共同体における学習の特異要因として、参加者の自発性と自由度の高さ、仕事から距離を置くことでの安心感と、比較して学ぶ「複眼的学習」、人的交流からの「循環学習」といった多様な学習スタイルを見出すことができた。実践共同体による学習は、従来の組織学習論や教育学からの学習論と排他的なものではなく、新しい選択肢を提供するものである。組織がその選択肢をもつことで、これまで進まなかった学習にモティベーションを与えることができる。あわせて学習を起点にした若手のリーダーシップの育成にもつながることを提唱している。
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