研究課題/領域番号 |
25380518
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
井手 亘 大阪府立大学, 人間社会学部, 教授 (20167258)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 非正規従業員 |
研究実績の概要 |
組織における非正規従業員について、勤続意思や雇用形態の選択に関する実態と、それを説明する理論的な考え方やモデルについて検討するため、前年度に引き続き、インターネットを通じた苦情相談のデータの分析結果をもとに実際の職場における組織レベル、個人レベルでの勤続や雇用にかかわる要因についての検討をおこなった。ここでは、非正規労働者に限らず、働く人が仕事や職場の問題についてインターネットを利用した相談ルートで、どのような相談を行なっているのか、また、そこではどのような支援が提供されているのかの観点から、要因につながる実態を探った。その結果、質問では仕事の内容やルールに関する「業務内容」が最も多かった。「賃金、税金」も多かったが、そこでは自分自身の賃金が相対的に高いか低いかを尋ねる質問が目立っていた。「休日、休暇」でも同様に、相談者の会社での有給休暇の与えられ方や、休日期間の長さなどが一般的かどうかの質問が見られた。各問題への回答についてまとめると、半数以上の回答が「情報的援助」であったが、これはネットでの相談の特徴をよく示している。「事例モデル」も20%くらいあった。事例にはもちろん有用な情報が含まれているので、広い意味では情報の提供をする回答が80%以上を占めていると言える。このような相談内容に現れた結果から、勤続意思や雇用形態の選択にかかわってくる重要な視点としては、業務内容、人間関係、賃金や税金が最も重視されており、続いて休日や休暇、労働時間もかかわること、昨今問題となっているいじめや嫌がらせ、ハラスメントについてもかかわってくることが明らかとなった。調査にあたってのモデルにおいてはこれらの点を反映させたものが求められる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
組織における正規従業員、非正規従業員についての雇用と勤続にかかわる要因の検討は順調に進んでいるが、これらをもとにしたモデルを検証する調査票の作成と調査の実施が本来の計画であった今年度には行えなかった。その理由は雇用にかかわる組織レベルの制度はさまざまに変化している途上であり、その洗い直しなどの準備に時間がかかったことが一つである。また、調査の対象者の規模をなるべく多くするため、27年度の配分予算も含めた資金を用いて調査をする計画としたためである。そのため、26年度で調査に使用する予定であった資金は27年度に繰り越し、27年度分とまとめて調査を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である27年度は、26年度に行うことのできなかった調査票の作成と調査の実施を行う。比較のために必要な場合は正社員についても調査を行なう。調査項目については、前年度までの検討にもとづいて組織レベルの変数、個人レベルの変数の指標となる項目を決定する。調査の結果をもとに、非正規従業員についてのモデルを検証する。分析にあたっては、対象とした職場によっては複雑な媒介変数,調整変数の影響が考えられるので、組織レベルの変数、個人レベルの変数の関係に階層線形モデルを中心にした統計モデルをあてはめることで、最適な解の検討を行う。データにより実証されたモデルについては、組織レベルで影響する変数と個人レベルで影響する変数のそれぞれについて、過去の研究で明らかにされてきた理論との比較を行うことで、パートタイム労働者の勤続意思や雇用形態の選択について理論的な検証を行う。研究によるインプリケーションとして、パートタイム労働者に対する処遇と雇用において、組織レベルではどのような制度や運用方法が適切であり、現状をどのように変えていけばよいのか、個人レベルでは、どのような雇用形態が望まれるのか、正社員との雇用形態上の差異は受け入れられるのか、といった雇用制度、方針全体についての示唆が得られることが期待される。研究成果については、国内外の学会において発表する予定である。また、企業組織、労働組合などに対して、正規従業員、非正規従業員の雇用について理論と実践にわたる提言を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
調査の準備を徹底するため、26年度に実施予定であった調査を27年度に実施することにした。そのため、調査準備、調査実施、分析のための費用を26年度には支出せず、次年度に繰り越すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
27年度に調査と分析を行うことで関連の費用をすべて支出する。
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