平成29年度は、現在、国(政府)が推進する「働き方改革」が具体化するなかで、この働き方改革の進展・実現が新商品を創出する技術者の能力と育成に影響を与えるのではないかという問題意識に焦点をあてることとした。小池(2006)などが指摘するように、現在の我々がもつ様々な仕事上の能力が、過去の仕事経験の積み重ねによって形成されていることからすれば、現在国(政府)が進めている働き方改革による働き方の変化は、将来の技術者の能力形成に対して大きな影響を与えるはずであるからである。そこで、働き方改革の要素の一部である、時間外就業や総労働時間の制限といった働き方の変化が、その後の技術者の能力形成に与える影響を部分的ながらも検討することとした。 X社でのアンケート調査結果を用いて、20代に時間的制約を受けた経験や、時間を気にせず試行錯誤した経験と、現在の技術者の能力との関係を分析したところ、20代の仕事経験のなかで時間的制約を経験した技術者の能力は低いことが示された。また、20代に時間を気にせず試行錯誤した経験を持つ技術者の能力は高いことが示された。この分析結果は、時間外労働や総労働時間の制限を厳しくすることが、20代の技術者が経験する仕事のなかでプレッシャーとしての時間的制約感が強まったり、よりよい製品・技術を目指した検討や工夫、試行錯誤を制限することに結びついた場合に、技術者の中長期的な能力形成を阻害する可能性があることを示唆する。このように、国が推進する働き方改革の一部には、中長期的に技術者の能力形成を阻害する可能性がある内容が含まれるが、この悪影響を緩和・超越する企業のマネジメントへの示唆も同時に得られた。これらの分析結果をとりまとめて学会発表を行った。
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