研究課題/領域番号 |
25380527
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
柳町 功 慶應義塾大学, 総合政策学部, 教授 (60230273)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 国際情報交換 / 韓国 / 財閥 / 経営構造 / オーナー経営 / コーポレート・ガバナンス / 国際経営 |
研究概要 |
1年目になる平成25(2013)年度は、韓国トップ財閥の所有・経営構造に関わる特徴や問題点を洗い出すため、国内外文献のサーベイ、関連インタビューの実施、その成果の学会発表(国内外)および出版を実施した。 1 国内外文献のサーベイの結果、第一に、韓国財閥に限定されない形でのトップマネジメント組織についての分析視角の整理・検討を行い、特に日本企業の事例研究の中から多くの示唆を得た。第二に、財閥のコーポレート・ガバナンス問題を社会風土の中で考察した。韓国企業の経営に関して国民間に深く浸透している反財閥情緒の問題を歴史的に考察した。国民経済面での多大なる貢献にもかかわらず、財閥は経済格差の主原因とみなされ、一般庶民の中に屈折した反財閥の意識が形成されている。 2 韓国にてインタビューを平成25年4~5月に実施した。企業側の意見として元財界団体幹部、元大手財閥の系列企業トップ、財閥に批判的立場の元市民団体幹部(大学教授)、財閥政策を推進した左派政権下の元長官、財閥企業研究者としての元大学教授などとの意見交換を行った。国内では大手財閥の元社長顧問、大手財閥傘下の元経済研究所役員などの企業関係者と討論を実施した。 3 成果としては(1)「日立における経営改革とトップマネジメントについて」(8月、ソウル大学国際大学院) では、日韓企業のトップマネジメント比較を韓国語で報告した。(2)「グローバル競争と新しい価値の創造―日韓企業間提携の発展可能性―」(11月、国際地域大会、光州)では、グローバル次元での企業間提携について韓国語で報告した。(3)「韓国における反財閥情緒を巡る摩擦と葛藤」(12月、現代韓国朝鮮学会、中京大学)では反財閥情緒問題を社会風土の中で議論した。(4)「韓国社会の持続的発展と財閥問題」(共著『アジアの持続可能な発展に向けて』249-262頁)では財閥問題の視点を整理した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25(2013)年度は、まず初めの作業として、従来行ってきた研究活動の成果に基づき、韓国トップ財閥の所有・経営構造に関わる特徴や問題点の整理のため文献サーベイを行った。その作業と並行して企業・財界関係者や元政府関係者、市民団体幹部などとの広範なインタビュー調査を行い、実態把握に努めた。こうした関係者との集中的インタビューは初めての試みであり、対象者との事前コンタクトや、質問用紙の作成、討論内容の予習など、多くの改善点とともに事前準備の重要性を学んだ。インタビューの内容としては、何よりも予想外の事実を知ることができ、多くを学ぶことができた。文字で書き表したりできない部分の把握のためには、今後一層のインタビュー調査のスキルを高めていく必要がある。一方、やはり時間不足のゆえ表面的、概観的インタビューに終わってしまった感が残る。インタビューの結果、より突っ込んだ討論をしなければならない問題点が明確化できることも多かった。2次、3次インタビューの効果的実施を計画していきたい。 文献サーベイや関係者とのインタビューを踏まえ、暫定的な研究成果を学会やシンポジウムでの発表につなげた。財閥問題を扱う研究ではあるが、もとより経営学者のみの閉じた場での討論だけでは十分掘り下げた議論にはならない。経済政策、国内外政治・外交、近現代史といった分野の研究者、あるいは韓国の政治・経済問題を扱うジャーナリストやマスコミ関係者との広範な意見交換も大変有益であった。その意味で、今まで行ってきた財閥研究の関連分野についての調査・研究も積極的にフォローしていかなければならない。 2年目になる平成26(2014)年度は、1年間の韓国滞在が決定している。1年目の研究活動の反省と成果を引き継ぎ、韓国での研究活動をより充実したものにしたい。
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今後の研究の推進方策 |
2年目となる平成26(2014)年度は、3年計画の中でのもっとも重要な時期として位置付けられる。基本的な課題としては、1年目と同様、国内外文献のサーベイ、関連インタビューの実施、その成果の学会発表(国内外)の実施の3つであるが、韓国に滞在できるこの時期(4月1日~翌年3月31日)に十分な時間をかけた文献・資料調査とインタビュー活動の充実を図りたい。 所属大学(延世大学)の中央・学部図書館はじめ、ソウル大学図書館や国立国会図書館、財界図書館(全国経済人連合会、大韓商工会議所、など)、企業図書館・シンクタンクなどを積極的に活用し、文献・資料収集を進める。韓国の場合、企業関係の情報や記録についてはきちんと整理されたものは多いとは言えない。「記録を残さないのが文化として定着している」とさえ言われるくらいである。仮に断片的であっても、未整理状態の記録や情報を集めて整理し、関係者とのインタビューによって補強しつつ全体像を構築していく作業が必要であろう。 研究拠点としては所属する延世大学校経営大学(学部)・同経営研究所とし、主たる研究パートナーとしては朴永烈教授(学部長、大学院長)、朴勇錫教授(副大学院長)、郭周映教授、朴憲俊教授がいる。主たる分析対象とするサムスングループに関しては、グループ図書館や経済研究所図書館での資料・データ収集をはじめ、関係者とのインタビュー調査を実施する。特に専門経営者としての経歴を持つ役員OB、グループ人材教育担当役員OB、グループ会長秘書室役員OB、またグループシンクタンクであるサムスン経済研究所役員OBおよび同現役役員・研究員といった関係者のネットワークを使い、公開資料やデータには表れない情報などについて、インタビュー調査の形で収集・分析する。
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