研究課題/領域番号 |
25380541
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
小林 一 明治大学, 商学部, 教授 (00205478)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 制度的起業家 / 認知的信頼と感情的信頼 / プラクティスとプラクシス / 居住モードと建築モード / 活用と探索 |
研究実績の概要 |
SAPの枠組みの特徴は、戦略を静的な存在ではなく、戦略化のプロセスとして理解しようとするところにある。要するに、SAPは戦略の内容研究ではなくて、戦略のプロセス研究として位置づけられる。それは、プラクティショナー(実践主体)と彼らを取り巻く制度的要因(プラクティス、実践慣行)との間の相互作用関係(ミクロ・マクロ・ループ)を彼らプラクティショナーの個別の実践行為(プラクシス)の変遷に注目しながら、プロセスとして理解するものである。 平成26年度(2014年)は以上のSAPの枠組みに依拠した2つの実証研究を行った。1つは「日本におけるディーゼルエンジン自動車の受容プロセス」を対象としたものである。日本では欧米に比べてディーゼルエンジン自動車の普及率が低い。この現状がどのようなプロセスを通じて生成されたのかを明らかにしようとしたのが、当該研究である。プラクティショナーが制度的な起業家として、ディーゼルエンジンの意味を形成するプラクシスがディーゼルエンジンに関する制度的慣行(プラクティス)を社会に定着させて、その慣行が逆にプラクティショナーのプラクシスを拘束するようになったのである。 もう1つの実証研究は、「資生堂の中国市場への進出プロセス」に注目したものである。現在、資生堂の売上の半分近くは国際市場から得られているが、その中心は中国市場におけるものである。この中国市場への進出プロセスをSAPの枠組みから分析するならば、資生堂がプラクシスを通じて、様々な信頼の源泉を社会的に構築し、化粧品に関わる新しい取引制度(取引慣行)を中国に定着させるプロセスとして説明できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度(2014年)はSAPの枠組みに基づいた実証分析を行い、その有効性を経験的に確証する作業を行った。社会構造(プラクティス)と行為主体(プラクティショナー)によるエージェンシー(プラクシス)との間のダイナミックな相互規定関係を2つの実証分析を通じて継時的に明らかにしてきた。そこから見出されたことは、発展の初期段階、企業のプラクティショナーは自由にプラクシス(エージェンシー)を発揮しているということである。これは建築モードが支配しているということである。組織学習論はこの状態を探索(exploration)という用語で説明している。 しかし、時間の経過と共に、構造(取引の社会的慣行としてのプラクティス)が社会的に構築・維持され、その社会構造が逆にプラクティショナーである企業を方向付け、エージェンシーの範囲を制約するようになる。SAPによれば、組織は建築モードから準居住モードへと進化しているのである。さらに、認知的・感情的なコミットメントや組織的アイデンティフィケーションが強化されると、組織は特定の行為連関へと拘束されるようになる。これはいわゆる行為選択のロックイン状態の到来である。この状態に至ると、組織は準居住モードから居住モードへと進化したことになる。組織学習論では、この状態を活用(exploitation)という用語によって記述している。SAPの枠組みから、組織進化を記述するならば、プラクティス(社会構造の影響)とプラクシス(エージェンシーの発揮)との間の相互規定関係が組織にパス依存性を生み出すということである。以上のように、経験的データに依拠しながらSAPの枠組みの有効性と限界を検討する段階に至っている。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度(2015年度)においては、前年度に引き続き研究成果の海外発信を中心に研究活動を進めていく。第1に、海外の英文ジャーナルへの論文投稿を行う。現在、Industrial Marketing Managementと、Journal of Business and Industrial Marketingに英語論文を投稿する作業を進めている。第2に、SAP研究プログラムの方法論的全体像を明らかにしたレビュー論文を国内の学会誌に執筆する。第3に、組織進化に見られるパス依存の効果をさらに調べるために、2つの日系企業(ヨーカ堂と伊勢丹)による中国における百貨店ビジネスの展開プロセスをインタビュー調査等によって明らかにする予定である。この成果は、来年2016年度のIndustrial Marketing & Purchasing Groupの年次大会等で報告することを目指して作業を進めている。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度に若干の未使用金額が発生したが、おおむね予定通りに研究作業をこなしている。差額として未使用分が生まれたが問題ないレベルである。
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次年度使用額の使用計画 |
現在、2本の英文論文を投稿中であり、今後、レビュアーからのコメントにあわせて、加筆・修正の作業が必要になる。未使用分は、英語論文の投稿前に必要となるネイティブ・チェックのための費用として使用する予定である。
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