Strategy-As-Practice(SAP)は、実践家practitioners、実践慣行practices、状況特定的実践行為praxisの3つのPに注目して、その相互交錯のなかで戦略策定の実体を明らかにしようとする戦略プロセス論のことである。最終年度である平成27年度(2015)は、以上の枠組みの有効性を経験的に検証するために、過年度におけるケース分析による研究成果の論文執筆と学会報告を行った。論文としては、ディーゼルエンジン車の普及に日本と欧米で大きな相違が見られる現象に注目し、自動車メーカーが置かれた実践慣行(制度的仕組み)の違いが自動車メーカー(実践家)の具体的な実践活動(プラクシス)に影響を与えていることを検証した。また国際学会ECLMGでの発表は、ある製造業者のサービタイゼーション戦略(モノの販売から問題解決の提案へ)の受容が日本とタイの両国で大きく異なる理由を探り、戦略の有効性は戦略それ自体で決定されるものではなく、企業が置かれた状況との相互作用の中で決定されることを検証した。 今後の研究展開として、分析事例のバリエーションをさらに増やすことを目的に、SAPの枠組みに依拠しながら、中国に進出した日系企業を対象に、その現地化プロセスを明らかにしていく予定である。すでに中国の日系化粧品メーカーを扱った論文をJournal of Business and Industrial Marketing 誌に寄稿し、最終のブラインド・レビューの段階に進んでいる。また、中国に進出した日系小売業者を扱った研究成果を32th Annual IMP Conference 2016において発表すべく、やはりブラインド・レビューを現在受けている。今後さらに対象業種を増やすことで、ケースのバリエーションを増やして、そこからの発見の一般性を高める作業を続けていく予定である。
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