CRMの現場でRFM分析が広く使われていることは、これら3指標が顧客の購買行動を簡潔に集約していることを裏付けている。本研究では、まず、既存のRFM分析の問題点を指摘した。次に、消費者行動に関する基本的な仮説に基づいて、RFM指標から顧客ごとに購買頻度、離脱率、購買金額を導き出し、その顧客の未来の行動を予測することによって顧客生涯価値 (CLV) を算出した。そして構築したモデルから、既存顧客の維持介入と新規顧客の獲得に関する知見が得られることを示した。 実証分析では、FSPで収集された百貨店の顧客購買データを分析して、購買行動を特徴付ける9つの統計量 (生涯価値に加えて、購買頻度、離脱率、購買金額、最終購買以降の期待生存時間、1年後の維持率、観測終了時点での生存確率、検証期間中の期待購買回数と総購買金額) を顧客別に算出した。これらの統計量は、優良顧客の識別や個別対応など個人レベルのCRM戦略に特に有用である。既存顧客に対して、誰に、どのくらいの介入レベルを、いつアプローチすれば、マーケティングROIの観点から最も効果的か、という維持介入例も示した。 見込客に関しては、購買頻度、離脱率、購買金額の3行動要因を顧客のデモグラフィク変数と関連付けることで、CLVの高い新規顧客獲得への知見などの経営上の示唆を得た。また、このデータでは、顧客の購買頻度と購買金額には負の相関 (-0.28) が有意に推定された。その結果、食品購入顧客の割合を増やすことによる購買頻度の増加が一回あたりの平均購買金額の減少で打ち消され、生存期間の増加のみが、CLVの正味の向上に貢献した。このような知見は、特に新規顧客獲得の際に重要である。
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