研究課題/領域番号 |
25380574
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研究機関 | 高千穂大学 |
研究代表者 |
恩蔵 三穂 高千穂大学, 商学部, 教授 (10287956)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 保険業 / 規模の経済性 / 国際化 / 保険の自由化 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、生損保両分野における保険業の海外進出について、規模の経済性に鑑みその有効性を検証するものである。 保険の先進国といわれる欧米においては、1960年代以降、保険業における規模の経済性や規模拡大行動に関する研究がすでに多数発表されている。我が国においても、1970年代以降、企業間格差に関する研究が取り組まれるようになってきた。 例えば生命保険業に関してみると、内国保険会社は1996年の保険業法の改正によって保険の自由化が推進されるまで非常にドメスティックであったことや、海外調査も含めた実態調査が困難であったため、国際化の観点から規模の経済性に関する研究は発展することがなかった。しかしながら、生損保両分野における保険会社間の提携や合併といった規模拡大行動が顕著となり、また大手外資系保険会社による日本市場への参入が積極的であることから、保険市場は大きく変化しつつある。ここで改めて本研究のテーマである保険会社の規模拡大行動と国際化問題に焦点を当てた研究を整理する必要があると考えられる。 本研究では、保険会社の国際化に伴う規模拡大行動に焦点をあて、国際化の有益性について検討する。そのため、内国保険会社の海外進出の状況について、各社に調査を行うことで得られる知見を整理し、実際にヒアリングを行った。また、文献整理等でも得られた2000年以降に収集したデータと比較検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までに完了した海外における保険会社の国際化と規模の経済性に関する研究整理に基づき、研究対象となる多国籍保険会社を抽出した。本年度は、ここで抽出された多国籍保険会社における優位性について検証するため、予定していた海外進出企業の実地調査を行った。 保険会社が国際化を通じて単にその規模を拡大させるだけでは、規模の経済性を享受できない。以上の点は、規模の不経済を実証的に解明した先駆的業績であるKatrishen and Scordis(1998)の研究以降、共通認識となっている。しかし、90年代末にかけてのアジア市場の拡大など世界の保険市場が大幅に変化し、保険会社の多国籍化が進展したにも関わらず、Katrishen and Scordis(1998)以来、十分な実証分析が行われていない。本年度は、国際化に伴う規模の不経済に直面した保険会社が、事業費率のマネジメントや情報技術の高度化、共通システムの構築といった諸方策によって、どのように効率化に向けた事業展開を実施しているのかについて、特に近年成長の著しいアジア市場を中心に現地に赴きヒアリング調査を実施し、回答を得た。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、昨年度に引き続き海外展開している保険会社の現地ヒアリング調査を実施する。その際、昨年度は成長市場に位置付けられるアジア市場についての調査を実施したため、本年度は対照的な成熟市場である欧米市場へのヒアリング調査を実施する。そこでは研究代表者が2005年から06年にかけて北米でのヒアリング調査を実施した際の成果との比較を念頭に置きながら、金融危機後の変化を析出したいと考えている。 また、ヒアリング調査と合わせサーベイ調査の実施も検討したい。Katrishen and Scordis(1998)の分析結果では、ヨーロッパやアメリカ等に本拠を置く(全体の9割)国際展開を進める保険会社について、1985年から1992年を対象とした93社(累計サンプル601)を分析した結果、ヨーロッパ・アメリカ等では規模の経済性が認められるものの、アジア市場における規模の経済性については懐疑的な分析結果が示されている。しかしながら、1990年代以降、国際保険市場に占めるアジア市場の重要性は増大しており、90年代前半の状況とは大きく異なる。特に90年代末から2000年代にかけて多国籍企業として急成長を遂げていたAIG(アメリカ)やINGグループ(オランダ)といった各社が再編を余儀なくされていく中で、90年代にはあまり見られなかった日本の生保会社の国際化が進展している現状では、理論的な研究においても再評価の余地があると考えられる。 最後に本年度は研究最終年度でもあるため、上記のヒアリング調査とサーベイ調査の結果について取りまとめを行い広く学会で成果を公開したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、昨年度の計画に基づき初年度に理論研究によって析出した課題について、海外調査を実施することで、分析を深めることに努めた。その際、当初の計画では成長市場であるアジア市場と成熟市場である欧米市場の双方について、実施調査を行うとしていたが、ヒアリング対象企業の状況などを勘案し、欧米へのヒアリング調査を次年度に繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度は、成熟市場である北米を対象に日本の保険会社へのヒアリング調査を実施する。
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