本研究の目的は、金融危機以降、ますます活発化する保険会社の海外展開について、規模拡大行動の観点からその有効性を検討することにある。 従来の研究から、保険会社が国際化を通じて単に規模を拡大させるだけでは規模の経済性を享受できないということが明らかになっている。ただし、90年代末以降のアジア保険市場の拡大とそれに伴う欧米企業のアジア進出、および金融危機以後の日本保険会社の国際事業展開といった近年の多国籍保険会社の動向を踏まえると、多国籍企業をめぐる規模の経済性に関する分析は、新たな視点で検討する必要がある。 そこで平成25~27年度にかけて、国内および海外における保険会社の国際化と規模の経済性に関する過去の研究成果を整理し、さらに海外に進出する生損保各社にヒアリングを実施することで海外展開の実態を考察した。これらの考察においても、単なる国際化は規模の不経済をもたらすと考えられた。一方、国際化に伴う規模の不経済に直面した保険会社が、事業費率のマネジメントや情報技術の高度化、共通システムの構築といった諸方策によって、どのように効率化に向けた事業展開を実施するのかについて、いくつか課題を設定することができた。 これらの課題設定に基づき、日本保険学会『保険学雑誌』第630号(日本保険学会創立75周年 / 保険学雑誌創刊120周年 記念号 )において、規模の経済性を追求するためには参入先市場において経営のイニシアティブを確保すること、また市場参入の発展段階に応じた戦略が必要であることについて、保険会社の海外進出の実態と照らし合わせて論じ、保険会社の海外展開による有益性について論文にまとめた。
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