本研究の目的は、価値共創ネットワークとQOLという2つの概念を中核とした地域マーケティング独自の研究枠組みを提示することである。 本研究から、2つの点が明らかになった。1つは、地域マーケティング本質は企業と顧客との2者間関係を前提とした伝統的なマーケティングではなく地域の利害関係者に向けてのインターナル・マーケティングを前提とした社会的マーケティングにあるということ、である。2016年に実施した地域社会の生活に密接に関係する宅配業者に対する定量的な調査から、宅配業者に向けてのインターナル・マーケティングは、結果的に社会に役立つような自発的貢献行動の1つである組織市民行動を促進することが示された。 もう1つは、姉妹都市交流に関するデルファイ法による調査から地域の価値共創ネットワークは認知的社会資本の形成によって構築され維持されること、である。地域QOLは空気のように普段はその価値には気づくことはない。その価値に気づかせてくれるのが、姉妹都市の地域QOLと自分たちの地域QOLを比較するというデルファイ法調査である。この調査を通して、自らの地域QOLの良い点と悪い点を相対的に評価する機会を得ることができるのである。また、地域の価値共創ネットワークも姉妹都市の地域の価値共創ネットワークと結合し、1つの価値共創ネットワークとして機能することにより、お互いの認知的社会資本を高める機会を提供することが明らかとなった。ただし、ネットワークの主要なノードとなるキーパーソンの高齢化ないしは死亡は、価値共創ネットワークに致命的な影響をもたらすこともあり、若い世代の価値共創ネットワークへの参加が不可欠であることも指摘された。 こうした発見は、地域マーケティングの独自な研究枠組みの構築に際して、価値共創ネットワークとQOLという概念が中核となる可能性が高いことを示したといえるであろう。
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