平成27年度は、持続的社会の実現のための医療・老齢保障システムにおける公・私保険の機能分担のあり方、保険業規制の国際協調のあり方に焦点を当てて分析を行った。 少子高齢化が進行するなか、生活保障システムを構成する医療・老齢保障分野において民間保険事業の役割への期待が高まっているが、医療保障システムにおいては保障の価格と内容に関する情報、加入者のリスク水準に関する情報、そして保険者の支払能力に関する情報の不完全性が、老齢保障システムにおいては物価・賃金の変動などの経済変動リスクと人口構成の変化などの社会変動リスクがそれぞれ存在し、加入者・保険者の双方に追加的なコストを課していることがわかった。そして、これらの要素の影響を最小化するためには、前者では強制加入・プール価格で公的保険が、任意加入・分離価格で民間保険が提供されるべきであるとともに、後者では賦課方式に基づいて公的年金が、事前積立方式に基づいて民間の年金保険がともに提供されるという、公・私保険の併存に一定の合理性があることが明らかとなった。 また、従来の保険規制は、保険企業の支払能力、保険料率、被保険エクスポージャのリスク実態に関する情報の不完全性を緩和するために各市場で個別に行われてきたが、保険企業のリスク移転取引が国際化するなか支払能力に関する情報不完全性は一層深刻となり、保険のリスク移転と金融仲介の機能を損ないかねないため、ソルベンシー規制、セーフティネット、会計基準、破綻処理規制などの健全性規制には、一定の国際協調が求められる。いっぽうで、保険料率・商品規制および販売規制などの市場行動規制について、個々の市場の歴史的・社会的背景や経済成長段階の違いを軽視した共通化は、かえって保険のリスク移転機能を損ないかねず、一定の個別性は許容されるべきであることがわかった。
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