本年度は3つの視点から研究を実施した。第1は,ソーシャルメディアにおける消費者の情報発信に対する分析手法の検討である。近年の消費者は特定の製品カテゴリーやブランドといった関心・テーマに基づくコミュニティに対する参加よりも,個人のアカウント上をもち日常生活について発信する中で消費に関する情報発信を行うという形態が定着している。このSNSにおける消費者行動を分析するためには膨大な個人の投稿から分析対象となる消費カテゴリーや製品に関する情報のみを抽出する必要がある。昨年度よりこの課題に対して取り組んで来たが抽出の精度が悪く,また分析者の主観に強く影響される手法にとどまっていたため,本年度は抽出基準の改善とテキストマイニング手法の変更によって倫理的消費に関する情報発信の抽出を行ない精度の高い分類と抽出が可能になった。第2にそれ基づき本年度は,ソーシャルメディアにおける消費者のアイデンティティ形成に関わって近年の特徴である画像投稿やシェアという行為に着目した研究に着手した。1年分のSNSの投稿データから倫理的消費においても流行性の強い関心については画像投稿が多くなされ,一方で生産者支援に関するものについてはシェアによる投稿がなされることを明らかにした。さらに画像認識システムとテキストマイニングを用いてそれぞれ投稿された画像やシェアした他者の投稿が持つ特徴を明らかにした上で,消費者の現代的な自己表現と位置づけ分析を行った。第3に,消費者の共感という感情に着目し,この共感が他者への支援や倫理的行動を促すことを検討した。サービス産業に着目し,従業員に対する支援意識と共感に関する実証調査を行なった。またこれまでの研究の総括としてこの共感とアイデンティティの関係を倫理的消費や支援の視点から検討した。
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