営業担当者は、境界連結者とも呼ばれ、ネットワークを構築、維持し、ビジネスを成功に導く重要な役割を担っている。本研究は、ネットワーク構築の際に、どのような潜在顧客とつながりを持つべきかという、見込み顧客の見極めの問題、いわゆるプロスペクトに特に注目をするものである。ネットワークは、営業担当者の支えにもなるが、しがらみとして営業活動の足かせになる可能性もある。にもかかわらず、ネットワークを無条件で良いものと考える事例がインタビュー調査で確認された。プロスペクトに関して言えば、ネットワークの中心にいる人ほど過度に重要な潜在顧客とみなされることがある。こうしたネットワークによって生じる営業担当者のプロスペクトに関する認知のバイアス(ネットワーク・バイアス)が、どの程度存在するのか、あるいはどのような性質があり、どのような帰結をもたらすのかを解明するのが本研究の目的である。最終年度に当たる本年度の研究では、ネットワーク・バイアスに関するいくつかの性質が明らかとなった。例えば、旧技術の推進者は、売り上げベースでは有望な潜在顧客とみなしうるが、画期的新提案を採用してくれるかどうかに限って言えばそうではない。また売り上げベースでみれば仕事上の人脈が豊富な人は有望な潜在顧客だが、画期的新提案の採用に関してはそうとも言えない。何を求めるかによって、どのようなネットワークを持つ潜在顧客が重要なのかは異なっているのである。こうした研究結果は、顧客との関係の在り方の再考を迫るものであり、リレーションシップ・マーケティングの在り方を考え直すきっかけになりうるものである。また、実務的には、営業担当者の教育に貢献しうるものである。
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