研究課題
本研究では、会計利益計算と課税所得計算の制度的連携(Book-Tax Conformity:以下、BTC)に焦点をあて、それが利益の質に影響を与えるか否かを分析した。平成27年度は、前年度に引き続き、S&P社のCapital IQから国際データを入手して、国・年ごとにBTCの程度や利益の質の程度を定量化した。前年度では、利益の質をあらわす指標として、利益平準化、短期的な会計発生高の見積誤差、裁量的会計発生高をとりあげ、BTCの程度が高い国ほど利益平準化を行う傾向にあるが、短期的な会計発生高の見積誤差や裁量的会計発生高の水準はむしろ小さいことが明らかとなった。平成27年度は、利益の質として、Basu(1997)によって知られる条件付保守主義の指標を追加して分析を行ったが、BTCの程度と条件付保守主義の程度に有意な関係を見出すことはできなかった。これまでの分析結果をまとめると、日本の会計制度は確定決算主義を背景として会計利益計算と課税所得計算が密接に連携しており、その水準は国際的に比較しても高いことが確認された。さらに、このような制度的連携によって日本企業の会計利益が過度に平準化されている可能性があり、その意味では制度的連携の程度を見直す必要があると指摘できる。しかし、その見直しの程度によっては従来よりも確度の低い会計利益が報告されることになり、短期的な会計発生高の精度が低下し、裁量的会計発生高の水準も高くなるなど、必ずしも利益の質を改善するとは言えない影響をもたらすことが明らかとなった。これらの研究結果については、日本会計研究学会第74回全国大会の「特別委員会(最終報告)経済社会のダイナミズムと会計制度のパラダイム転換に関する総合研究」の一部として報告されている。
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