研究実績の概要 |
研究目的は3つある。ひとつめは、フランスの個別会計における社会性が強い会計システムへの影響の調査、ふたつめは、IFRSの利益観に焦点を当ててフランスにおける浸透性を明らかにすること、この2つを通じて、新しい会計基準設定主体内の変容を解明することである。このうち、利益観の浸透性については継続して調査中であるので、他の2つについて研究成果を述べる。 まず、企業の大多数が中小企業であるという認識がある(Colasse, B.;藤田[2015])。会計制度のあり方について、SME版IFRSを適用することは慎重な考えが明示され、二分化が確認できた。これと併せて、会計基準設定主体の戦略的な行動の源泉として学術的な研究成果の活用が意図されていることが明らかになった。 パブリック・セクターが、研究者が生み出す学術的知見の情報収集センターになりつつあるという試みである。こうした試みにおいては、まず財務報告と金融をも含む研究成果を統合し、フランスの研究力を底上げすることが意図されている。 しかしながら、研究方法に着目すると実証研究に依存するとはいえず、伝統的な理論の変遷や各国の比較分析、歴史研究、実務の現状調査も奨励されており、多様な研究方法を活用する可能性が示されている。とくにフランスの伝統的な価値に重きを置く研究主題には、記述的・歴史的研究手法が用いられ、社会性が強い会計システムを擁護する論理構成になっていることが判った。とはいえ、いずれもエビデンス・ベースであるよう奨励していること、研究テーマは時機を得たものであることが要求されている。 総括すると、かつての利害調整型の基準設定は変化しつつあることが確認できた。これに代わり、学術的知見の収集と研究者コミュニティとのネットワーク型に変容しつつある片鱗を見出すことができた。今後も注視するとともに、利益観の浸透についても継続調査したい。
|