研究課題/領域番号 |
25380607
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
中條 祐介 横浜市立大学, 国際マネジメント研究科, 教授 (40244503)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 非財務情報 / 財務報告 |
研究概要 |
今年度は非財務情報の開示に関する意義と日本企業の開示実態について研究を進めた。その意義としては、非財務情報の開示により、財務情報だけでは伝達することが難しい企業の価値創造源泉を適時に顕在化されることが期待できる点にあるといえる。しかしながら、いかなる媒体・方法で開示するのかによっては、カオスを生み出す可能性も否定できない。利用者側が適時適切に必要な非財務情報を利用できる環境の構築が課題といえる。 また、日本企業における開示実態については、①開示項目がいくつかの媒体に分散して開示されていること、②開示事項について規模や業種に特性がみられることを明らかにした。開示媒体の分散という状況は、利用者志向とは言い難い。特に、会社Webページの場合、複数のページに散在しており、また、会社都合で情報の更新・削除が行われる場合もある。情報利用者の利便性を向上させ、非財務情報へのアクセスを高めるために、非財務情報のワンストップ型での提供や非財務情報をアーカイブ化することも有益といえよう。 開示情報に関して規模や業種に相違がみられるという点は、制度開示に向けての大きな課題といる。つまり、制度的に開示すべき非財務情報を標準化しようとした場合、業種等により有用性が異なる可能性があり、費用便益の観点から調整の難しい問題に直面することが予想される。この問題解決にあたっては伊藤[2011]で述べられている「強制的自発開示」アプローチが有効と考えられる。すなわち制度的には開示すべき大枠のみを示し、開示すべき内容は経営者の判断に委ねるというものである。これであれば、規模や業種の相違により生じる異なる情報ニーズに対応することができるであろう。 なお、実態調査については、サンプリングに関するバイアスの問題、開示情報を質的に評価する際の評価者バイアスの問題を含んでおり、これらの改善は今後の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は、非財務情報に関する先行研究のレビュー、実証研究に向けたデータベースの構築、及び事例研究、パイロット・テストを中心に実施することを計画した。まず、先行研究のレビューについては、主要なものについて整理することができた。ただし、当該分野における研究は次々に新しい成果が公表されていおるので、引き続きフォローしていきたい。 次に非財務情報に関するデータベースの構築についてであるが、現時点では①市場規模・占有率関連、②品質評価、③顧客満足、④従業員満足、⑤離職状況、⑥イノベーション、⑦その他事業関連情報といった項目ごとに、量と質、開示頻度、開示方法によって構成されたデータベースを作成した。また、過去に発信された非財務情報についても可能な限り収集するため、Nikkei CgesやValue Searchといった市販のデータベースも活用して補充・拡張を図っている。 事例研究、パイロット・テストの実施に関しては、日本企業について、上場企業に占める構成割合の高い化学、医薬品、機械、電気機器、建設、小売の6業種を調査対象とし、規模による層別無作為抽出法を適用して、業種ごとに総資産に基づき5分位に分け、各分位のおおよそ25%と75%の会社を抽出して実施した。このパイロット・テストを通じて日本企業の非財務情報開示に関する特徴の一端を明らかにすることができた。今後はこれをより大きなサンプルを用いて検証を重ねていきたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、前年度に構築したデータベースをもとに平成25年度版の日本企業における非財務情報の開示実態の公表と、このデータを用いた非財務情報の情報効果についての検証に着手する予定である。具体的には、さまざまな非財務情報のカテゴリーについて(顧客満足、環境負荷など)、そのカテゴリー別に情報効果を析出することを試みたい。それと同時に、業種特性や規模効果の有無を確認するために、これらの要素を加味した検証も実施する。また、先行研究の整理・体系化を進めながら、新たに公表された文献も追加しつつ、知見のアップデートに努める。 最終的には、非財務情報が目標設定された場合の経営者行動に及ぼす影響に関する実証分析を実施したい。例えば、市場占有率が目標設定された場合、市場占有率を確保するために売上総利益率や営業利益率の低下が許容されるかといった検証である。もしこれらの事象を検出できた場合、私的会計政策研究に関する新たな分析視角を提供すると考えられる。 本研究課題を総括するものとして、研究期間を通じて得られた実証研究等の知見を踏まえ、非財務情報の開示モデルの提示したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
3月9日に予定されていた研究会が中止となったため、国内旅費が未支出となり、次年度使用額が生じました。 平成26年5月10日に実施される学会に出席するための国内旅費の一部として使用する予定です。
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