本研究の目的は,管理会計の新機能として,テンション(「張り」の)・マネジメントに注目した管理会計システムの設計と運用に関する知見を深めることにあった。管理会計による「張り」のマネジメントとは,業績目標の設定やマネジメント・コントロールシステムの設計・運用によって,業務目標間のトレードオフや組織成員の受ける緊張状態に影響を与え,組織プロセスや組織成果へ影響をおよぼすマネジメントのことである。 主たる研究成果は次の2点である。第1に,製品開発コストマネジメントである原価企画におけるテンション・マネジメントの効果を検証した。郵送質問票データに基づく分析の結果,原価企画における「挑戦的目標原価」(設計目標間のテンション)と「部門間協働」(異部門間の協働に伴うテンション)が組織業績(原価低減)におよぼす正の影響は,プロセス産業でのみ確認された(加工組立型産業では確認できなかった)。 第2に,業績・予算管理におけるテンション・マネジメントとして予算厳格度に注目し,業績評価の包括性(財務・非財務指標など業績目標の多様性を高め,評価においても客観的評価のみならず必要に応じて主観的評価を取り入れる柔軟性)とが組織業績におよぼす影響を検証した。郵送質問票データに基づく分析の結果,低い環境不確実性下では,高い予算厳格度に加え,多面的に業績を評価することが適合的であった。一方で,高い環境不確実性下では,予算厳格度を低め,多面的に業績を評価することが組織業績を高めると想定したものの,期待した関係を確認することはできなかった。現在,この点についてフィールド調査を継続実施中である。 管理会計の2大テーマ(コストマネジメントとマネジメントコントロール)におけるテンション・マネジメントについて,フィールド調査も加えた総合的な実証研究は世界的にも稀であり,発見事項は世界的にも注目されるものと考えている。
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