本研究の目的は、一部の財務会計数値の持つ統計的な性質に注目し、その解析手法として新たな方法の適用可能性を探求することにあった。企業の規模を示す総資産額、売上高、純資産額、当期純利益などの数値の分布は冪乗分布していることが明らかになっているが、従来のような正規分布を仮定した解析手法ではなく、冪乗則に従ったデータに対応した新たな解析手法はないかを調べることにした。 この研究を進めるにあたっては、まずは財務データの整備をおこなった。EDINET上で公表されたデータを随時取得するソフトウェアを導入し、この研究期間の間に公表されたすべての上場企業のデータを取得した。そして資産総額、売上高、純資産額、当期純利益などの数値の分布特性を確かめたところ、両対数分布のグラフはマイナス1の傾きを持つ直線に近い形状を持つことが、本研究期間中くりかえし確認された。このことにより、これらの数値の持つ統計的な分布特性が冪乗則に従うことを実証できたと考えている。 冪乗則に従って変動する数値は、いわゆるフラクタル性(自己相似性)を持つことが知られており、当期純利益の分布について階級を色々と変化させながら頻度分析を行った結果、最頻値付近のデータ部分のみを抽出し極めて小さな階級値でヒストグラムを作成した場合に観察される分布もまた冪乗分布していることが分かるなど強いフラクタル性を確認することができた。しかしながら時系列的なフラクタル性を数値化するフラクタル次元の計算を試みたが、サンプルが少なすぎたため十分な結果が得られなかった。 なお研究期間中に、テキストマイニングやディープラーニングといった新たな分析手法が注目を浴びるようになり、当初の計画を少し変更しこれらの分析も試みた。その結果、上場企業の場合、東日本大震災の影響が震災そのものよりも電力供給の不安定さがもたらしていることなどを明らかにすることができた。
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