研究課題/領域番号 |
25380622
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
片岡 洋人 明治大学, その他の研究科, 教授 (40381024)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 製品原価計算 / 原価計算対象 / 顧客ニーズ / 情報共有 |
研究概要 |
初年度には、実務で採り上げられている現場の経営意思決定に関する諸問題を明らかにするために、これまでに企業訪問をした結果をまとめ、企業実務において各業務担当者が直面している問題点を整理した。 例えば、A社のケースでは、その競争力の源泉は、各々の店舗における販売の現場力および自社製品の企画・開発力にあるといってよい。各店舗の販売担当者は、全社の中期経営計画や年次計画、商品部門毎の計画に基づいて、日々のオペレーションを実行している。また、商品の企画・開発担当者(マーチャンダイザー)のMD活動は製造業における原価企画活動と多くの共通点を有していることも指摘できる。 一方で、B社のケースにおいても、製造と販売の現場における弛まぬ努力を全社的な利益に結び付けるべく製品原価計算システムが構築されていた。同社独自の製品原価計算システムを通じて、地域別・販売チャネル別等に詳細に設定された各商品セグメント別の収益性に関する情報を共有することによって、販売と製造との間の垣根、およびコーポレート・カンパニー・事業部との間の垣根を取り除いた全社的な協働体制の構築を試みている。 両社の製品原価計算システムは、ともに非常に詳細に原価計算対象(SBU)を設定していることが大きな特徴の1つである。つまり、顧客の細かなニーズ別に対応できるように設定されたSBU別に損益計算を行うことにより、情報を一気通貫させて、スピード感をもって迅速に対応することができる。また、両社のシステムともに、そのシステム設計者が果たした役割が大きいことも忘れてはならない。 以上、平成25年度においては、わが国の製品原価計算実務をリードする企業のケースを用いて、製品原価計算の実務・利用方法と、そこから得られるインプリケーションを明らかにするための資料の収集と整理を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度には、製品原価計算実務に関する様々な資料を整理・分析することができた。とくに同年度は在外研究中であったため滞在先のアメリカにおける管理会計研究の動向を確認することができたと同時に、製品別計算における基礎的な研究に関する研究報告(日本管理会計学会2013年度全国大会自由論題)を行った。総合原価計算の工程別計算において、累加法の下で先入先出法を適用する場合には、製造の現場における在庫削減の努力にかかわらず前工程における期首仕掛品原価が後工程における期末仕掛品原価へ影響を及ぼしてしまう。同研究報告では、その影響度を一般式により明らかにし、数値例を用いて検証している。この内容に関する研究論文を近々のうちに日本管理会計学会へ投稿する予定である。 さらに、平成26年度における研究報告へ向けての準備を着実に進めることもできた。その成果としては、日本原価計算研究学会の第40回全国大会において「製品原価計算の実務とインプリケーション」というテーマで報告することを予定している(報告申込済)。優良企業の製品原価計算実務を通じて、有用な会計システムには、①刻々と変化する顧客ニーズを具に、そしてタイムリーに反映する;②業務担当者の行動(意思決定)に影響を及ぼす;③顧客へ提供する製品・サービスの相違が損益計算に反映されること;④その企業の組織コンテクストに適合しているという4点つの特質があることを明らかにする。 このように、平成25年度には、各々の優良企業における組織コンテクストとの関連で、適切なPDCAサイクルの回転を促す製品原価計算システムの利用方法を明らかにするための基礎を固めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
まず、第2年度以降も継続して複数の企業へのヒアリング調査を進めていくことが重要であると思われる。とくに調査対象企業だけではなく、すべての企業はその企業独自の組織コンテクストを有しており、それが当該企業の経営システム(製品原価計算システム)にも大きな影響を与えている。この関係性を綿密に分析しない限り、本研究プロジェクトで掲げた目的を達成することができない。 一般的にはABCの利用方法については、その目的との関連で議論されるに過ぎないが、企業実務を観察してみると、同じ目的をもって設計された同じシステムも全く異なる利用方法がなされていることも珍しくない。なぜならば、そこには各企業の有する組織コンテクストの相違によって、同じ目的で設計された同じシステムも異なる利用の仕方がされるからである。したがって、ヒアリング調査を蓄積することにより、各々の組織が有する組織コンテクストの相違を明らかにすることが製品原価計算システムの利用方法について検討する際には極めて重要である。また、調査対象企業では、各々の製品原価計算システムは他から導入されたのではなく、自らの必要に応じて自らの組織に適するシステムを自ら設計していることが特質である。 以上より、第2年度は、そのような組織コンテクストの相違と製品原価計算システムとの関係性について、複数の企業へのヒアリング調査に基づいて整理するとともに、研究成果として公表する予定である。また、それと同時に、製品原価計算システムの基礎的研究も並行して進めていく必要がある。この点についても、とくにモデル化とシミュレーションを中心として、第2年度以降も継続して進めていく予定である。
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