本年度においては,前段階の研究の一部である利益訂正の発生要因と企業ガバナンスの関係に関する調査をサンプルを拡大しながら実施した。そこでは,既に得られている知見に追加するような発見はとくに得られなかった。これまでの分析結果については,その研究成果を国際学会において発表し,国際的な視点あるいは学術的な視点からの意見を得た。 さらに,利益訂正と意図的な会計操作の関係をより深く研究するための手段,あるいは,利益訂正という重要な会計上の誤謬の存在を予測するための有力な手段である,裁量的な発生項目額を推定するためのモデルについて,2010年以降に学術雑誌等て展開された有用性が高いと見込まれる複数の最新モデルを検討した。その結果,裁量的な発生項目額をより正確に把握することができ,さらに,利益訂正の予測能力に貢献できるモデルが存在する可能性があることを明らかにした。複数のモデルの比較研究に関しては,国内学会において発表するとともに,学術雑誌に論文を公表した。 本研究は,研究期間の全体にわたって,国内取引所に上場する企業による利益訂正の事例を取引所が運営する適時開示情報システムを利用して継続的に収集し,そのデータベース化を進めてきた。2004年以降においてその件数が急激に増加した後,内部統制報告制度が適用された2008年以降はその件数に減少傾向が見られた。しかし,それは主に,意図せざる誤謬の減少が貢献したのであり,意図的な誤謬(会計上の不正)と推測される件数は安定的に発生していることがわかった。継続的に収集した利益訂正事例に関するデータベースを公表するためにホームページを作成した。なお,ホームページのソースコードは作成済みであり,今後,ホームページ・アドレスを取得し,データベース内のデータの最終チェックを行った後に公開する予定である。
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