研究課題/領域番号 |
25380633
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研究機関 | 高松大学 |
研究代表者 |
津村 怜花 高松大学, 経営学部, 准教授 (90582940)
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研究分担者 |
清水 泰洋 神戸大学, 経営学研究科, 教授 (80324903)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 簿記・会計史 / 西洋簿記の導入過程 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、19世紀以降の近代化の過程で、日本、中国、韓国に西洋諸外国の簿記知識が伝播した過程を明らかにすることにある。 昨年度の研究成果を受け、平成26年度は、引き続き日本、中国、韓国における経済史・経営史・会計史・教育史研究等に関する史料収集を行うとともに、特に中国における西洋簿記伝播の過程の整理を試みた。まず、韓国の事例とは異なり、中国人自ら固有の会計を改善するという目的から、西洋簿記書の翻訳が行われた。これが中国における第一の西洋簿記翻訳書である。しかし、この知識はあまり普及しなかったとされる。その後、西洋諸外国ではなく、日本へ留学する中国人留学生が増えたことから、韓国と同様に、日本に留学した者が日本の簿記書を中国語に訳して出版し、その知識が普及したことが明らかになった。 以上の事から、中国および韓国には同時期に、日本への留学生等を介して西洋知識が伝播した点で共通する。このように日本の西洋簿記知識が中国・韓国に伝播した背景には、留学生や教師といった「人」を介した知の伝播があったことを挙げることができる。しかしながら、中国、韓国においても、日本語を直訳するのではなく、自国の人に分かりやすように解説を加えるなどの工夫や改良が成されていた点には注目する必要がある。 中国および韓国に影響を与えた日本の西洋簿記書もまた、翻訳者は日本人に分かりやすいように、邦訳上の工夫や帳簿形式の改良がおこなわれ「日本西洋簿記」といっても過言ではないほど、日本の商慣習や文化に適合した簿記書が誕生したのである。このため、中国・韓国にとって、日本の簿記書は西洋簿記の知識を受け入れる上で、アジア化された考え方が含まれていたという点で、一種の緩衝剤としての役割を果たしたものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現時点で、中国・韓国の西洋簿記導入過程について個別考察を終え、両国における日本を介した西洋簿記知識の伝播の過程を明らかにするとともに、ある程度両国の類似点、相違点を明らかにすることができた。この点では予定以上の進展ともいえるが、中国については、翻訳書を使った知識の伝播の過程という点においては、未だ考察が不十分であり、継続して調査・研究を続ける必要がある。 また、昨年度の学会報告等において、「日本式西洋簿記」についてより具体的に示す必要があるとの指摘を頂いている。この点については、研究計画には示されていないが、追加検討が必要な内容であると考え、考察を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の国際学会でのコメントを踏まえ、「日本式西洋簿記」知識の中国および韓国への伝播の過程をある程度明らかにすることができた。中国における翻訳簿記書に基づく知識の普及過程の考察が終わり次第、論文にまとめたいと考えている。 また、「日本式西洋簿記」とはどのようなものを指すのか。より具体的にその特徴を示すとともに、日本文化に適合した知識の形成過程を明らかにする必要がある。この「日本式西洋簿記」の形成過程の一端として、現在考察が進んでいる範囲については、Accounting History International Conferenceで報告すべく、エントリーを行っている。学会報告にあたり、査読者のコメントを改善できれば報告できるとの返事を頂いており、現在、再考を進めている。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画時には、今年度も国際学会の報告を検討していたが、昨年度の国際学会でのコメントを踏まえ、追加考察等を行うことに注力することとした。このため、今年度は国際学会での報告および英文校閲を行わなかったため、その分、旅費や人件費等の出費が発生しなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、これまでの成果を論文として発表および学会で報告する準備を検討しており、適切に英文校閲にかかる人件費、学会報告にかかる旅費等を計上する予定である。
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