科研最終年度であり何点かのテーマ上きわめて重要な、しかも将来の一層の研究の更なる基礎となる、総括的でもあれば端緒的でもある課題についての論文を仕上げようとした。一つは19世紀末の初期ドイツ社会学史上最大の難問であるディルタイとジンメルの関係について総括的な見通しを与えるという論文である。これは2015年度に学会発表したものだが、さらにそれを1年間かけて彫琢し、専門学会誌に掲載したものである。19世紀後半から20世紀初頭における社会学の形成の思想的意味を歴史、文化、生をめぐる当時の最重要の論点との相関のなかで確認しようとしたものである。二つは、当時の社会学的議論の具体的実質をなした、その社会理論の根本諸概念をめぐる議論の概略をテンニース、ディルタイ、シェッフレ、ウェーバー、ジンメルなどを相互に関係づけつつ素描する長編の論文を用意することである。これは本科研のまとめであるが、きわめて困難な問いでもあり、完成ということは当面あり得ないものである。その意味で今後の一層の研究への出発点となるべきものとして準備した。成果は科研報告印刷冊子版としてまとめた。具体的には、社会学的ターミノロジーとは何かをめぐる当時の論争を、テンニース、オイケン、ジンメル、ディルタイ、シェッフレ等の思想家の議論を通して追究した。争い、競争、闘争、組織、織物、有機体などの具体的概念をめぐる議論の応酬もそのさい辿ろうとした。これによって従来ウェーバーにのみ依拠してとらわれがちであった初期ドイツ社会学形成史への見通しを相当に拡大することに成功した。当時の社会学形成史を究明するためには、哲学から心理学、そして自然諸科学の動向にまで目を配る必要があり、その広範な思想史的地平のなかでの社会学の形成という課題を解明する基礎は開きえたと判断する。
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