研究課題/領域番号 |
25380647
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
斉藤 日出治 近畿大学, 日本文化研究所, 研究員 (10186950)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 海南島 / 侵略犯罪 / 植民地責任 / 海南海軍警備府 / 強制労働 / 自然 / 空間 / 時間 |
研究実績の概要 |
1 海南島における現地調査 本調査は、市民団体である紀州鉱山の真実を明らかにする会および海南島近現代史研究会による1998年以来の現地調査活動の一環としておこなわれたものである。2014年10月28日より11月11日に海南島を訪問し、第15警備隊に住民を殺害された文昌市の抱羅鎮石馬村、東閣鎮鰲頭村、牛流坑村、田頭村、蓬来鎮高金村、南陽鎮金花村、重興鎮昌文村など、佐世保第8特別陸戦隊に住民を殺害された潭牛鎮昌文村、第16警備隊に住民を殺害された陵水黎族自治県隆広鎮白石、英州鎮九尾吊村などの各村で、幸存者および遺族の方々から話を伺った。また定安県では、日本海軍舞鶴鎮守府第一特別陸戦隊守備隊の定安本部が置かれていた大安中学校を訪問し、生体解剖や細菌実験が行われていた建物の跡を見学した。住民虐殺は、乳幼児を湯で殺し女性を強姦するなど殺害方法が残虐なこと、遺体が放置されたままで動物に食い荒らされたこと、村民が家族を失い村から逃げて苦難の生活を強いられたこと、報酬のない過酷な強制労働にかりだされたことなどの被害の深刻さを学んだ。 2 日本の植民地主義と自然・空間・時間認識 また日本がこのような住民虐殺をおこなった背景にある植民地主義の思考について、日本の近代社会に根づいた自然・空間・時間概念を検討し、それらの概念がアジアの資源略奪や住民の強制労働や住民虐殺にどのように結びついているのかを考察した。この考察に関しては、D・ハーヴェイの『コスモポリタニズム』が貴重な方法論的手がかりとなった。この植民地主義的な自然・空間・時間認識は戦後の日本社会にも継承され。それが公害問題、地域と農村の疲弊、原発災害という形で露呈する。残酷極まりない住民虐殺の実態がひた隠しにされ、不問に付されていることもこの戦後日本社会の在り方と密接にかかわっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
被害住民からの聞き取りは現地語の理解の問題、現地での文史史料の不備、幸存者の高齢化など多くの困難な課題を抱えていて限界があるが、これまでの聞き取りと史料の裏付けを通して日本の社会および歴史研究において知られていなかった住民虐殺の実態を明らかにすることができた。 また、本研究は、海南島の住民虐殺の実態調査を進めると同時に、この住民虐殺と日本の海南島統治のありかたを究明し、さらには戦後の日本社会でこの実態がまったく知られずにきたことを戦後日本の歴史認識のありかたの問題として問うことを課題としている。住民虐殺、食糧略奪、強制労働、住民の生活と生命の破壊がもたらした根こそぎの収奪が海南島の民衆にもたらした苦悩を受け止めようとしない日本社会に戦前の植民地主義の思考が根付いていることを、自然、時間、空間のありかたにまで掘り下げて究明する糸口をつかむことができた。
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今後の研究の推進方策 |
2015年度も、秋および春に海南島の現地を訪問して調査を進める。海南島で殺害された住民のかたがたの氏名、殺害された状況、襲撃した日本軍の状況、日本の統治下が住民の生活にもたらした変容、現地の住民の抵抗のありかた、などについて可能な限り明らかにする。 さらに、本研究の最終年度にあたって、このような住民虐殺を推進しながらその実態を不問にする日本の植民地主義的思考の根源を探ることを課題としてこれまでの研究をまとめる作業に取り組みたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2015年3月に予定していた海南島の現地調査が新年度の4月にずれ込んで実施されたため、2015年度の予算に繰り越して使用することになった。
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次年度使用額の使用計画 |
これまでと同様に、10-11月と3月に2回海南島の現地を訪問し、聞き取り調査、および日本の統治に関する遺跡・資料の収集をおこなう。そのための旅費、滞在費、通訳謝礼などに支出したい。
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