今年度は、1900年代以降の職歴の中でも、特に変化の大きかった戦時期に着目した研究をおこなった。特に戦争による不平等、職歴の変化という観点から、主に2つの研究をおこなった。 第一に、兵役経験者の職歴に関する分析である。入隊前の職業と除隊後の職歴について検討していった。特に高度経済成長が始まる直前の1955年頃までの職歴について検討していった。分析から、戦争を通じて、戦後一時的に階層の影響は消失する(つまり平等化が進む)が、2、3年後には出身階層の職業選択への影響が再び現れることが明らかとなった。その一方で、戦争による混乱の影響は、戦後急速に減少していくことも明らかとなった。このことから、戦後の格差、不平等の基底をなす構造がこの頃作られるとともに、戦争自体の影響がなくなっていくことで、その後の高度経済成長の原動力を作り出したと考えられる。 第二に、戦時中の死亡リスクに関する分析である。社会階層による戦時中の不平等の実態を明らかにするために、戦時中の死亡リスクの階層による違いを明らかにした。分析の結果、20~40歳の男性について職業、学歴によって、死亡リスクに違いがあることが明らかとなった。戦争は、国家総動員体制のもと、負担の平等化が幻想として存在していたが、現実には「命」の不平等が存在していたのである。
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