研究課題/領域番号 |
25380650
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
下夷 美幸 東北大学, 文学研究科, 教授 (50277894)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 離婚 / 扶養 / 履行確保 |
研究概要 |
本研究の目的は、「離婚後の親子関係の断絶」という日本的な家族規範はどのようにして維持されてきたのか、を明らかにすることである。このような家族規範として、時代を通じて最も顕著にみられるのは、「離別した親子の経済的扶養関係の切断」という事象である。そこで、この事象に深くかかわると考えられる、離別した父親の扶養義務の履行確保について、日本と主要先進諸国の制度・政策を検討した。 その結果、離別した父親の扶養問題を抱えている点では各国共通だが、日本以外の国がいずれも司法制度とは別に、行政による履行確保の制度を整備しているのに対し、日本はそのような行政による家族介入的な制度を導入せず、扶養の確保を司法制度に委ねている、という点に特徴を見出すことができた。たとえば、アメリカは行政の公権力をフル活用して父親の扶養責任を追及する制度を展開している。イギリスはアメリカに倣った強力な制度を運用しつつも、近時は父母の合意による解決のための支援に力点を移している。オーストラリアは税システムを利用した制度によって、父親から扶養料を効率的に徴収している。スウェーデンでは父親に代わって、扶養料を立て替える手当が半世紀以上も前から実施されており、国家が子どもの扶養に責任を持つ体制が確立している。このように各国の制度はさまざまだが、いずれも日本とは対照的に、行政が離別した親子の扶養問題に強力に介入している。 以上の結果から、日本では、行政は家族問題に介入しないという観念が政策主体の中枢に根付いていることが明らかとなった。このことは、「離婚後の親子関係の断絶」という日本的な家族規範の維持強化に、家族不介入の観念を基盤とする政策が深くかかわっていることを示している。このことから、家族をめぐる人々の規範と政策の関連性という重要な問題を提起することが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
はじめに、離婚後の親子関係の日本的特徴を顕著に示す事象の検討を入念に行った。その結果、「離婚後は親子関係を断絶する」という日本的な家族規範について、歴史的な視点と国際比較の視点の両方から、複合的に検討可能な事象として、「離別した親子の経済的扶養関係の切断」に焦点をあてることが最も有効であると判明した。こうして、離婚後の親子の扶養関係という事象を分析対象としたことが、結果的に本研究の推進力となった。 まず、離婚後の扶養の実態と深くかかわる、離別した父親の扶養義務の履行確保に関する制度・政策の国際比較を行うことが可能となり、それにより、日本の制度・政策の特徴を明らかにすることができた。さらにその特徴の根源を探究することで、政策の基底をなす政策主体の家族観念を析出することができた。 このような分析を通して、離婚後の家族をめぐる人々の規範と、離婚後の家族問題に関わる制度・政策のそれぞれの日本的特徴を関連づけて考察する方向へと研究をすすめることができ、当初の計画以上に研究を進展させることができた。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの研究により、「離婚後の親子関係の断絶」という日本的な家族規範の維持強化に、家族不介入の観念を基盤とする政策が関連している、との視座を得た。そこで、本研究課題を達成するために、今後、離婚後の家族問題にかかわる日本の制度のなかでも、とくに、「離婚後の親子関係の断絶」にかかわる紛争事件を扱う、家庭裁判所の履行確保制度について研究する。そこではおもに、制度の歴史分析を行う。その主眼は、制度の歴史から現代の問題を探究することにある。 具体的には、まず、家庭裁判所の履行確保制度の現状について検討し、「離婚後の親子関係の切断」との関連から、現行制度の問題点を析出する。つぎにその問題の解明に向けて、「家族への介入/不介入」の視点から、制度の歴史的な分析を行う。その際、制度の導入時だけでなく、その前史となる家庭裁判所の構想段階、創設段階にまでさかのぼって検討する。それにより、家庭裁判所の履行確保制度の形成過程の全貌を明らかにすることを目指す。 以上のような分析を行い、「離婚後の親子関係の切断」をめぐる紛争事件に対する制度の日本的特徴を明らかにすることで、離婚後の親子関係に関する人々の規範と、制度との関係を探究していく。
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