本研究は、東日本大震災の被災地において、農家および漁家がいかにして自らの存続基盤を取戻し、農山漁村の再生を図っていくのかということを、女性の参画のあり方から実証的に解明することを目的としている。研究の最終年度である平成27年度は、これまでの研究成果を集約して報告書を作成するとともに、学会で報告した。しかし、所属機関の変更に伴い6月末で助成事業を廃止せざるを得なかったため、実質的には平成25年度から26年度の2年間の研究成果となった。岩手県陸前高田市、福島県南相馬市および福島市を対象とする調査研究によって明らかになったことは以下のとおりである。 (1)本研究では、農漁家が当たり前のように営んでいる事柄、その配列やルールを農漁家の「生活秩序」として捉え、彼らをとりまく、震災以前と以後の社会的時間の連続性および差異性に注目した。 (2)考察の結果、震災後の厳しい生活現実が農漁家に対して震災以前の生活構造を認識する機会をもたらしており、自己や家族の生活保障のあり方、リスクを抱えた地域構造、過去の世代が作った生活基盤等の問い直しが行われていること、さらに、そうした社会的な自己認識は、自分たちの近未来の生活像や農漁村の生活戦略に深く関わっていることが明らかとなった。 (3)とりわけ、ジェンダー非対称の条件のもとで行われる農漁家女性自身の「自己観察」をとおして、震災後の現実を変革する必要性が彼女たち自身に把握されている。女性たちはこうした自己観察を手掛かりとして、直売所および農家民宿などの復活および展開に向かって精力的に活動していることが看取された。 (4)以上の研究成果をふまえて、農漁家の生活を全体的な実在として把握し、生活する主体に即すという主観的観点の重要性を強調した「生活実践の社会学」の展開が今後の研究課題として析出された。
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