研究課題/領域番号 |
25380654
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
井上 孝夫 千葉大学, 教育学部, 教授 (10232539)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 高滝神 / 平地ダム / 鉛汚染 / 水道特別会計 / 関東地下水盆 / クレー射撃場 |
研究実績の概要 |
本年度は、千葉県市原市を流れる養老川水系の高滝ダムの保全と利用をめぐる問題を主要な事例として取り上げた。 このダム湖は、110戸の集落移転を伴った平地ダムである。当初の建設目的は主として洪水対策にあったが、費用負担の問題が絡んで、最終的には水道水源として利用するかたちに落ち着いた。しかし河川の中流という立地点と利用目的とのあいだの齟齬から、次のような問題点が存在することを確認できた。 ①水道原水として利用するため、水質改善の対策が講じられているが、ダム湖の完成以来20年が経過しても改善はみられない。②建設費の負担に伴って、市原市営水道の特別会計は大幅な赤字となり、年度当初から一般会計からの繰入金によって収支の均衡化をはかる、という状況がつづいている。つまり、水道水源を従来の地下水からダム湖の表流水に転換したことによって、水道事業は事実上破綻状態に陥っている。 その一方、クレー射撃場から飛び出した鉛の散弾による水質汚染問題が顕在化し、社会問題化したが、千葉県が抜本的な改善策を実行して、問題は沈静化した。これは高滝ダムが水道水源として位置づけられたことによる早急な対応であり、利用することによって保全への道筋が開かれたもの、として評価することができる。 そのほかに、前年度に調査対象とした田柄川(東京都練馬区)について、継続的に調査し、併せて、前谷津川(板橋区)、谷端川(豊島区、板橋区等)、神田川(文京区等)についても比較検討のため、流域環境と開発の経緯について、調査を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
養老川水系・高滝ダムの保全と利用をめぐる問題は、その建設経過に不分明な点があり、1993、94年度に調査を実施したことがあった。それを踏まえて、今回の新たな調査によって、「平地ダムを水道水源として利用するには多大な困難を伴う」という当時の予想がほぼ裏づけられるかたちとなった。つまり、今年度の調査をつうじて、おおざっぱに予想していた事項が検証され、問題の構造的、本質的な把握へと至ったわけである。 その一方で、前年度に実施した田柄川流域の開発史の検討は、実は江戸の町づくりに伴う上水道の整備という問題と絡み合い、江戸・東京の水系問題の一環という位置づけが求められていることが明確になった。
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今後の研究の推進方策 |
三年計画で進めている本研究の最終年度となるため、残された最後の事例研究である下関市武久川水系の環境改善策について検証していく。すでに主要な文献の収集は済ませているので、内容の検討を早急に行い、実地調査を実施して、水質改善の要因について解明していく。 併せて、これまで実施してきた事例調査に基づいて、都市河川の利用と保全にかかわる社会学的視点を明確化する作業をつづけていく。
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