研究課題/領域番号 |
25380654
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
井上 孝夫 千葉大学, 教育学部, 教授 (10232539)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 都市河川 / 公共下水道 / 暗渠化 / 緑道公園 / 都市化 |
研究実績の概要 |
本年度は主として山口県下関市の武久川水系を事例として取り上げ、検討した。武久川水系は1990年代初頭、全国でも水質汚濁が進んだ河川としてクローズアップされた。住民の環境美化活動や行政の河川改修工事など、一定の対応が行なわれたが、生活排水対策は立ち遅れていた。だが1990年代半ばになると公共下水道の整備が進み、「下水道処理人口普及率」が90%を超えて数年が経過した時点で、環境基準値を充足させるほどの水質改善がもたらされた。だがその結果はどうかといえば、河川は自然性を失って雨水の排水路としての「野川」の様相を呈するに至った。 実はこの過程は、都市化がより進んだ地域では典型的にみられるパターンであり、その代表的な事例として東京都板橋区をかつて流れていた前谷津川水系の変遷をたどるなかで、より大きな枠組みのなかに位置づけることが可能となった。すなわち都市化に伴って、河川は、(1)農村地域を流れていた当時の面影の残る時代、(2)都市化による生活排水が流入して下水道化する時代、(3)公共下水道の整備に伴う雨水排水路の時代、(4)暗渠化され、緑道公園となる時代、といった具合に変容していく道筋が明らかとなった。 この枠組みに即していえば、武久川は(3)の段階にあるわけで、今後、河川敷の用地拡大や自然環境に配慮した改修工事などによって、好ましい都市河川が形成されていく可能性がある。人間の積極的な利用による水の循環系はすでに断ち切られているとはいえ、上流部における水源の確保や地下水の有効利用などによって、そうした可能性の実現が期待されるのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は研究開始後の最終年度にあたり、年度の研究計画の遂行とともに、三年間の蓄積を総括する予定であった。ところが、学内業務の繁忙さなどもあり、時間的にみて年度内でのまとめが困難な状況になったと判断した。 そこで、一年間の期間延長をお願いして、ある程度の余裕をもってこれまでの研究蓄積を再検討し、総括していくことにした。その成果については、研究報告書として紙媒体でまとめる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討から、河川環境の変容は都市化の進展度と密接に関わっていることが明らかとなっている。例えば、東京を中心に、10キロ圏、20キロ圏、30キロ圏で河川の現況が異なっているのは、都市化のテンポと公共下水道の整備状況に大きく規定されているためである。この両者の関連を河川の側から捉え直して、河川にとって都市化とは何か、という観点から総括し、研究報告書としてまとめる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画の最終年度として、これまでの三年間の研究成果を再点検し、紙媒体でまとめるべく、予算執行計画を立てていたが、学内業務が繁忙となり、研究計画を一年間延長することとした。それに伴って、コピー費、印刷・製本費、発送費などに残余が生じ、次年度使用とすることになった。
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次年度使用額の使用計画 |
研究成果報告書をまとめる過程で必要なコピー費、印刷・製本費、および関係機関への発送費として使用する予定である。
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