今年度は、鹿児島県(鹿児島県社会事業協会保健婦養成所)と大阪府(大阪市立保健婦学校、大阪女子厚生学園)における戦時下の保健婦養成に関する文献の補足調査と当時教育を受けた元保健婦へのインタビュー調査を中心に研究を遂行した。各調査地では、県立図書館、公文書館、保健婦養成所を前身とする短期大学付属図書館等を中心に資料の収集を行った。インタビュー調査は、大阪女子厚生学園の卒業生1名に対して実施した。 以下、とくに成果のあった点について述べる。第一に、昭和18年大阪女子厚生学園で始まった保健婦養成については、後継教育機関に残存する資料が比較的豊富であったことに加え、卒業生へのインタビュー調査が実現したことで、これまで調査を行ってきた島根県、岡山県、鹿児島県等、高等女学校卒業者を対象とした2年課程の保健婦養成(第一種保健婦養成所)の多様さを分析していく上で大きな成果が得られた。当時の地域における衛生環境と社会福祉制度、養成所の設置主体と教員構成等の教育内容を分析軸とし、論文にまとめているところである。第二に、本研究で調査対象とした保健婦養成所の卒業生は、草創期の保健婦活動の実践者でもあった。その活動拠点は、主に町村役場や産業組合、保健所であったが、共同炊事や農繁期託児所という戦時下農村における共同施設事業に携わった実績もある。研究初年度と今年度は第一種保健婦養成所卒業生に対するインタビュー調査を行い、研究期間全体を通しては雑誌『医療組合』『保健教育』『健民』および地方新聞記事を収集し、保健婦の実践を網羅的に確認した。結果、戦時下の社会福祉的な要素を持つ共同炊事や農繁期託児所への保健婦の関与から、社会福祉が制度領域や実践領域としては他の領域と重なり合う部分が多く、その境界も可変的であることが示唆された。今後、実証的なデータを用いて分析を進めていく。
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