前2年度に引き続き、資料収集と分析を行なった。資料収集については、北海道新聞の記事を1988年までの分を検索し、北海道新聞社がデータベース化している前(1988年7月)の期間をカバーすることができた。他には人類学系の出版物や動向を整理した。また、政策動向については、アイヌ政策推進会議のホームページにアップロードされる議事概要等の関連情報を収集した。 分析については、三つの論点を立てて検討した。(1)施策については、アイヌ政策推進会議の動向を中心に、産学官の連携体制の形成と展開を、核エネルギー政策関連の研究から知見を得て、主流化と周辺化の力学、共依存構造、制度化されたレイシズムといった枠組みを用いて特徴を抽出した。その結果、政策推進会議は「有識者」性ゆえの近代的閉鎖性を帯びていること、「民族共生のための象徴空間」への遺骨集約に向けて研究者とアイヌ協会が共依存構造を形成していること、制度化されたレイシズムの構造では、ヘイトスピーチへの批判が現行の政策推進を支持する言説となってしまうこと、などの知見を得た。(2)学術については、人類学系の研究が批判を受けながらも維持され、「民族共生の象徴となる空間」計画では慰霊施設として遺骨集約が進められようとしている流れを、研究組織のサバイバル策として検討した。(3)報道については、北海道新聞に掲載された記事のうち、連載や社説といった量的にも質的にも影響力の大きいものに焦点を当て、動向を分析した。
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