研究課題/領域番号 |
25380671
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
永谷 健 三重大学, 人文学部, 教授 (50273305)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | エリート / 実業 / 温情主義 / 戦前 / 国際労働会議 |
研究概要 |
おもに大正期における実業エリート層の社会的な位置取りの変容プロセスついて、3誌(『実業之日本』『中央公論』『太陽』)の記事内容および日本工業倶楽部に関する資料の分析をもとに、次の諸点について考察した。 1.第一次大戦中とその後の数年間にあっては、経済的な拡張主義の高揚のなかで、実業エリート層は文明国への先導者、あるいは、事業上の「リスク・テイカー」として捉えられることが多く、また、彼ら自身もしばしばそのように自己定義を行っていた。2.第1回国際労働会議の議案(労働時間や最低就労年齢など)に対する一部の実業エリートたちの対応が契機となって、実業エリート層への批判的思潮が急速に活性化した。批判の論点は、彼らの前近代的な労働者観、および、温情主義への固執による労働条件の国際標準からの撤退である。すなわち、国際労働会議をめぐる一連の事態は、国際標準への彼らの党派的な対応に対する〝興醒め感〟と彼らへの否定的な社会的評価を招いた。3.拡張主義を背景に発足した日本工業倶楽部へと実業エリート層の意思表明機関が一元化したことも、彼らへの批判が激化した一因となった。同倶楽部の設立前まで、実業エリート層の統一的な見解は、個別実業家による新聞・雑誌への単発的な投稿記事から推測されるというものであった。しかし、同倶楽部の発足以降、それはいわば党派的な団体の意思表明という形で提示されることになった。国際労働会議以前の大戦景気の時期に設立が企画された同倶楽部が、発足間もなく労働問題に対峙せざるを得なかったという皮肉なタイミングが、実業エリート層の党派的イメージを高める一つの要因となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究自体は順調に進展している。現在のところ、研究計画のとおり、戦前期の社会階層に関わる諸問題について資料の収集と分析を確実に前進させている。しかし、当初予定していた戦前期の中間層に関する分析については、かなりの進展が見られるとは必ずしも言えない。戦前期中間層に関する研究は、資料収集の点でも検討・考察の点でも、作業量が無限であるという点が理由として考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
戦前期中間層に関する研究については、すでに少なからず資料を収集している。平成26年度は追加資料の収集に努めながら中間層関連の検討を前半期で一旦終わらせ、早めに当初予定していた戦後期の資料収集および分析に集中したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
戦前期階層関係文書資料の購入を計画しているが、高額になるため残額での支出は難しく、次年度に支出を繰り越した。 次年度の交付金から、戦前期階層関係文書資料をまとめて購入する予定である。
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