最終年度は、南海トラフ地震の重点対策地域(高知市と名古屋市)でヒアリングを継続するとともに、2015年に実施したアンケート調査の結果を取りまとめ、論文と報告書の作成に取り組んだ。調査成果は、(1)調査対象地の開発やそれと関連した土地利用の沿革が同地の災害脆弱性の形成に及ぼした影響、(2)住民の社会的世界や防災意識、(3)南海トラフ地震の被害想定の上方修正が自治体や地域コミュニティに及ぼした影響、に分けて整理した。 一般に災害研究では実践的な防災対策が問われがちであるが、対策の前提としてコミュニティの生活構造に関する総合的、歴史的理解が重要である。本研究はこの点に関して社会学的なアプローチを試みたものであり、調査地の災害脆弱性が開発(root causes)に根ざすものであること、防災技術的対策が地域の防災・生活に及ぼした多面的影響、災害リスクと階層の関連、被害想定の意図せざる帰結(地価や企業移転への影響)等について、実態調査を通して明らかにした。こうした知見は、既存の防災対策を批判的に相対化する上で一定の意義を持つものと考える。 以上の研究成果は、2016年3月に研究成果報告書(『南海トラフ地震被災想定地域の社会構造と防災対策に関する社会学的研究』総頁数103頁)にまとめるとともに、その一部を「巨大災害被害想定下のコミュニティ」と題する論文にまとめ、『社会分析』(No.43)に投稿した。また、日本社会分析学会第130回研究例会、第2回東日本大震災研究交流会で研究成果の一部を報告した。
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