本研究では、精神医療に関連法(精神保健福祉法、心神喪失者等医療観察法)についての評価や成立過程でなされた議論や、患者の権利や特別処遇をめぐってなされた議論から、精神障害者や触法精神障害者の処遇についての課題や問題設定の変遷を考察した。 これまで、精神保健福祉法や保安処分に関する議論の中心的な論者の一人である、平野龍一の主張の変遷をモデルとして、その議論の土俵がどのように変わったかを検討してきた。2000年代の主張と1950年代の主張を比較すると、平野の想定する課題や法が対象とする者は異なっている、あるいは反対のものですらある。もちろん、平野自身も、同時代の問題提起に触発され、自覚的に立場を変化させていったことはある。しかし、継起的連続的な捉え方は、こうした変化を見えにくくすることを検討した。 最終年度には、近年、社会学をはじめとする研究で注目されている「当事者」概念との関連も踏まえ、これらの法の評価や成立に関する議論での当事者のあり方について検討した。2009年にも当事者についての検討は行ったが、今回は精神障害者や他の障害者の「当事者研究」のあり方も踏まえ、「当事者」として発言することについての別様の考察を行うことができた。M.フーコー、I.ハッキング、エスノメソドロジーを用いて検討する意義も明確化できたと考えている。最終年度の成果については2016年7月の東北社会学会で報告し、2017年3月に東北社会学年報に共著論文を投稿した。
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