研究課題/領域番号 |
25380684
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
宇城 輝人 関西大学, 社会学部, 教授 (60381703)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 社会的所有 / 社会的なもの / 個人主義 |
研究概要 |
初年度である今年度は、本研究の基本的で基礎的な作業を実施することに注力した。すなわち、3つの研究対象領域のうち「社会的所有の概念史」と「個人性の社会的基盤」に重心をおきつつ、国内外に存在する先行研究および一次文献資料を広くサーヴェイし、研究史の達成と対象領域の全体的見取り図について整理を行った。研究実施の途上において一部、国内で入手不能な文献の存在が明らかになったため、それを検索し入手するために2014年2月フランス国立図書館と社会博物館にて調査を実施した。 社会的所有という概念が提起され、それにもとづいて社会制度を整備しようとしはじめる19世紀末から20世紀初頭の思想状況について、先行研究を参照しながら検討を加え、「社会的なもの」にとっての(私的)所有がもつ理論的な重要性を、もっと一般的に近代社会の構成という文脈におきながら分析することができた。そのさい、所有をめぐる社会主義的な論点とそこに生じる困難を、社会的なものを思考する理論家や実践家たちが回避したり乗り越えたり挫折したりするその様態に詳細な注意を傾けた。 上記の結果として、福祉国家の作用を、自由主義の基本原理である(私的)所有の概念・制度の「拡張」として把握することを可能にする理論的見通しを再確認し、そのうえで、自由主義の変容ないしは屈折と社会主義の多様な展開とのあいだの齟齬あるいは共鳴あるいは融合といった仮説を立てながら、福祉国家下における個人主義ひいてはポスト福祉国家とも見なしうる現代における個人主義にかんする考察を導く問題設定を構築する手がかりを得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書における研究計画の今年度分に記載したように、本研究は「社会的所有の概念史」、「プルードンおよびプルードン主義における所有思想」、「個人性の社会的基盤」の3つの研究対象領域を設定している。それらについて同時並行的に研究を進める過程において「社会的所有」と「個人性」を優先したが、その研究作業が「プルードン(主義)」研究の枠組みをなすことが意図されているため、次年度以降の作業の前哨をなす格好になっている。以上のことを鑑みるに、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
上記のとおり、本研究は「おおむね順調に進展している」と評価されるものであることから、交付申請書に述べた研究計画に準拠しながら、研究遂行の途上で必要が生じることがあればその都度、研究計画を再検討を行い、必要があれば変更を加えながら、研究を遂行していくのが順当であると考える。 具体的には、ひきつづき「社会的所有の概念史」と「個人性の社会的基盤」についての前年度の作業研究を前に進め、その成果としてある程度明確になった見取り図のうえに、所有の社会的機能――とりわけ個人の集団的基盤としての――についての思考と制度的試みの歴史的諸相に踏み込んで考察を展開したい。 それと同時に、プルードンおよびプルードン派による所有批判とアナキズム・社会主義の論理が、社会的所有に結びつく思想・実践とどのような連関において展開されたのか考察するための見取り図を明確にする作業にとりかかりたいと考えている。 上記の作業を進めていきながら、現在世界的に進行中の社会国家の現代的変容について、社会的所有という視点から適宜、再解釈を加える作業にも着手する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
購入した物品(プリンター、書籍)の費用が予定額よりも安価であったなどの理由による。 次年度の使用計画としては、所有と労働の社会・政治思想に関連する資料と図書の購入、文献整理などに必要な文房具の購入にあて、有効活用する予定である。
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