研究課題/領域番号 |
25380699
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研究機関 | 専修大学 |
研究代表者 |
廣田 康生 専修大学, 人間科学部, 教授 (60208890)
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研究分担者 |
藤原 法子 専修大学, 人間科学部, 准教授 (60573300)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 下からのトランスナショナリズム / 場所形成 / ポストコロニアル理性批判 / ポスト構造主義 / 多文化主義 / 統合 / 共生 / 、エスニック・コミュニティ |
研究実績の概要 |
本研究は、「トランスナショナル・コミュニティ」の形成原理とその都市社会学的意味を「場所形成」に関するフィールドワークと「トランスナショナル・コミュニティ」研究の認識論的、方法論的検討をとおして明らかにするものである。本研究では、平成25年度は、東京新宿の通称コリアンタウンをフィールドとして、移動・流入する人々の「場所形成」過程を中心に聞き取り調査を実施した(この結果は『社会調査実習の記録』として非公表であるが冊子にまとめてある)。だが、同フィールドワークの過程で筆者らは差異のぶつかり合いや「場所」への意味づけの衝突、「統合と多様性」問題を取り上げる研究枠組みそのものの問い直しに直面し、「トランスナショナル・コミュニティ」研究に底流する認識論、方法論の検討、再確認に迫られた。そこで平成26年度は、新宿コリアンタウンの聞き取り調査を継続するとともに、重点を「トランスナショナル・コミュニティ」研究の認識論、方法論に関する理論的な検討作業に移し、当初予定に盛り込んだニューヨーク・マンハッタン、イーストビレッジ周辺での日本人移動者の「場所形成」過程に関するフィールドワークを一回に留め、平成25年度に実施した日本人起業家へのインタビューの継続と、日系人会主催の行事参加だけに限った。 しかし結果としては理論的な検討が思った以上に進展し、グローバル対ローカルの二項対立には解消されない「場所」の新概念の希求、アイデンティティの複数性の承認、ポスト構造主義的な「主体」概念に照準することの必要性、「差異に開かれたコミュニティ」の希求への志向性が、カルチュラルスタディーズやポストコロニアル理性批判、ポスト構造主義哲学の動向とともに「トランスナショナル・コミュニティ」研究を支え、それこそがトランスナショナリズム論の存在意義であることを再確認し、これを本研究全体の認識論とすることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「トランスナショナル・コミュニティ」研究の認識論的基礎に関する考察が大幅に進展し、本研究全体の認識論、方法論として確認できたことは「当初の計画以上に進展した」点であると自己評価する。 反省点としては、1)上記の理論的考察を「論文」の形に整理し、公表できなかった点、2)東京新宿コリアン・タウンの聞き取り調査については廣田の授業の中で実施し、その結果を『平成26年度 社会調査実習報告書』の形で調査報告書として作成してはあるが、「科研費の助成を受けている調査報告論文」として「謝辞付」の調査論文の形で公表することができなかった点、3)当初予定していたニューヨーク・マンハッタンのイーストビレッジでの日本人移動者の「場所形成」に関する聞き取りが調査が当初予定したほどには実施できなかった点、が挙げられる。 ただ、理論的な論文にしても調査論文の公表にしても、その草稿はできているので次年度にはまとめることが可能である点を前提に、平成26年度の研究計画全体としては、「おおむね順調に進展」という自己点検評価をしている。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、本研究の最後の年度になるので、1)平成26年度に行った「トランスナショナル・コミュニティ」研究に底流する認識論、方法論についてブラッシュアップし、本研究課題全体の「認識論的、方法論的枠組」として、論文として整理、公表すること、2)新宿コリアタウンの場所形成過程の現状についてはある程度まとまったので、そこに見られる「場所形成」の特徴と「トランスナショナル・コミュニティ」形成の課題について、筆者がこれまで継続的に実施してきた群馬県大泉町の「ブラジル・タウン」における「場所形成」過程と相互参照すること、3)課題であるニューヨーク・マンハッタンの日本人移動者の「場所形成」過程に現れる「多様性と統合」の乗り越えの仕方を、上記新宿のコリアンタウンや群馬県大泉のブラジルタウンでの「場所形成」過程を相互参照させること、4)上記の結果を、“グローバル化時代”の都市コミュニティ形成の原理に関する研究としてまとめるつもりである。 なお、群馬県大泉町のブラジルタウンについてはすでに廣田の社会調査実習授業のなかで聞き取り準備が進められており、ニューヨークの聞き取りについては研究分担者の藤原が現在長期在外研究者としてニューヨーク大学に滞在しているので、連絡をとりながら進める方針である。できれば、平成27年度中に、本研究について報告書や書籍等、何らかの形で公表を計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度は、平成25年度から続けていた東京新宿通称コリアンタウン等での「トランスナショナル・コミュニティ」における「場所形成」過程の調査研究をする過程で、「トランスナショナル・コミュニティ」研究の認識論、方法論に関する文献研究、理論的検討が緊急に必要なことに気づき、トランスナショナリズム論に本来底流する認識論、方法論的な基礎を、カルチュラルスタディーズやポストコロニアル理性批判等の思想的動向に目配りをしつつ確認するという理論的作業にエネルギーを割いた。そのため、計画当初、数度に渡って予定したニューヨーク・マンハッタンのイーストビレッジをフィールドにした日本人移動者の聞き取り調査を一回に制限した。その結果、海外渡航費、宿泊費等の額の大きな費目が未使用になったため、使用額が大幅に減少した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は、本研究の最終年度になるので、1.平成26年度に検討した「トランスナショナル・コミュニティ」研究の認識論的、方法論的前提に関する研究を、本研究全体の研究方法論として整理し論文としてまとめるための文献の購入、2.新宿コリアンタウン、群馬県大泉のブラジルタウンでの「差異に開かれた主体」「差異に開かれたコミュニティ」に関する聞き取り調査のための旅費、文献購入費用及び現地協力者への謝礼、ニューヨーク・マンハッタンのイーストビレッジにおける日本人移動者の「場所形成」過程に見られる「多様性と統合」、「差異に開かれた主体」に関する聞き取り調査のための海外旅費、3.上記の研究のために一冊の報告書としてまとめるための費用、を計画している。上記の調査計画の実施のため、平成27年度は国内調査費用、海外渡航費、宿泊費、報告書印刷、出版等の費用に予算を使用する計画である。
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