| 研究実績の概要 |
本研究の目的は「トランスナショナル・コミュニティ」の編成原理とその都市社会学的意味を、「多文化地域におけるマイグラントの場所形成とアイデンティティ」のエスノグラフィックな研究を土台に、その認識論的,方法論的意味の考察をとおして明らかにすることにある。
この研究目的に沿い、平成25年度では、新宿大久保コリアタウンにおける韓国人マイグラントやムスリム・マイグラントの「場所形成」に関する聞き取り調査と、マンハッタン・イーストビレッジの日本人マイグラントに関する予備調査を実施し、平成26年度は、ニューヨーク・マンハッタン・イーストビレッジ等での日本人マイグラントへの聞き取り調査を行ってきた。
最終年度である平成27年度は、以上の「場所形成」に関する聞き取り調査の結果を踏まえて、「トランスナショナル・コミュニティ」の研究枠組みの根幹をなす、「フィールドからの認識論・方法論」の最終検討を行い、こうした認識論及び「多文化地域におけるマイグラントの場所形成とアイデンティティ」研究の意味を、都市コミュニティ論が課題とした「下からの都市論・都市的世界論」研究とどのように結びつくのかを検討した。
最終年度の研究成果は、『トランスナショナル・コミュニティ―場所形成とアイデンティティの都市社会学』（ハーベスト社）として2016年3月25日に刊行したが、その最も重要な成果は、多様性に開かれたコミュニティの像を描く手がかりを得ることができたこと、そして多様性の中で生きる日本人マイグラントのアイデンティティを、従来の「はざまのアイデンティティ」としてではなく、自らの多様な生き方や価値観の特徴を想像力豊かな方法で合わせながら獲得していく姿として提出できたこと（これを本成果では「想像的アイデンティティ」と名付けた）である。
これが、下からの都市論・都市的世界論形成への一つのしかし重要なステップであると確信している。
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