スハルト政権後の改革の時代を経て急速に増えてきた地方テレビ放送について、それぞれの地域でどのような役割を果たしているか、とくに地域文化形成への関わりに力点をおいて研究を進めてきた。 最終年度は、ジャカルタ、メダン、そしてジョクジャカルタなどでの調査を行った。ジャカルタでは住民に対する調査を行ったほか、放送行政に関して関係機関へのインタビュー調査を行った。商業都市メダンでは、意外にも地方放送が独自の形成を見ておらず、中央のテレビ局によるネットワーク化が進行していた。つまり、メダンでは、住民はむしろ外からの情報を強く求める傾向にあることがわかった。ジョクジャカルタ調査では、違法放送や放送資本の戦略について多くの知見を得ることができた。つまり、空いている周波数があれば使われてしまう点など、ガバナンスの問題点が確認された。ただ、ジョクジャカルタは、メダンと違って、文化都市としての自負心の強い土地柄か、地方放送局の独自性はかなり強いと評価できる。 また、2002年放送法の国会における審議記録を電子データの形で入手することができた。地方放送の振興に向けた国会の議論の後を確認する作業が急がれる。 3年間の研究期間全体を通して、インドネシア各地の放送事情について総覧することができた。経営基盤が脆弱で中央の放送資本によって系列下におかれていく地方局がある多いなか、地域文化形成の担い手としてぎりぎりの生き残りをかけている局の戦略について確認することができた。ただ、他方ではテレビ放送そのものがネットなどに押され気味で、今後も十分な視聴者を得ていけるかどうか疑問も大きい。 本研究には、連携研究者として倉沢愛子・慶應義塾大学名誉教授にご協力いただいた。
|