研究実績の概要 |
今年度は補足調査と研究成果の発表を実施した。2016年7月、研究成果の一部をISSCO(International Society for the Study of Chinese Oversseas,UBC主催)において発表した。ここでは日本において進めてきた中国系移住者研究と移民社会であるオーストラリア、カナダ、アメリカ・ニューヨークにおけるフィールドワークの結果得られた第二世代に関する文化的市民権の実態を比較検討した。得られた結論は以下のとおりである。 文化的市民権は多文化主義政策の一環として提唱されてきた。多文化主義政策が後退しつつある今日、母語・母文化は中央政府による財政的な支援が得られにくく、エスニック・コミュニティによる取り組みが中心である。 ただし、それぞれの社会において支援のあり方は大きく異なる。オーストラリアにおいては、州政府レベルで民間の母語教育機関に対し、永住者・国籍をもつ受講者数に応じた財政支援が実施されている。財政支援はエスニック・コミュニティの安定と人々の社会統合にプラスの効果をもたらしている。カナダではこうした対応は実施されておらず、母語教育グループに公立の教育機関を教育の場として提供するにとどまっている。配分については地域に展開する教育ボードが予算配分に大きな発言権をもつ。またニューヨークにおいても、幼稚園の多言語教育という取り組みはみられたものの、母語・母文化の維持について小学校以上では民営あるいは団体の運営する語学教育機関にゆだねられている。第二世代の母語維持は各世帯の経済状況に応じて個人的に実施されるにとどまっている。 移住第二世代の社会統合には、母語・母文化が一定の役割を果たすことが社会学的研究成果によって明らかにされているが、財政的支援をどのような形で実施するのかはエスニシティに対する政治状況に左右されるものと考えられる。
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