本年度は最終年度として報告書を作成し、4本の論文と食品公害に関する3つの年表、さらに資料として日本と台湾の油症患者における法律を原文・日訳とともに掲載した。以下内容を述べる。最初の論文は食品安全行政に関するもので、食品安全基本法を中心にその成立経緯と特性、さらに食品安全委員会の報告書分析から見えてくる各アクターの位置づけをまとめた。次にカネミ油症推進法制定後、被害者と国と企業の三者協議が数回実施されてきたが、その経緯と内容に関して論じたものが2本目の論文である。法制定から3年がたっても、2世3世の問題、医療費・生活費の問題等なかなか解決していない現状であることがわかった。3本目は、油症患者の掘り起こしにある程度貢献している地方自治体である長崎県五島市の油症患者政策において、2014年に執筆した内容にさらに付け加える形で2015年以降の油症政策をフォローした。2015年において前年度の油症政策の検証が行われていた事が、新しく確認されたことであった。最後に台湾油症に関してのレビューと台湾油症ケア法に関する被害の語られ方をまとめた。資料は限定されてはいるが、やはり台湾油症事件においても社会学的な視点が少ないこと、さらにケア法を見る限りは、被害が時間的・空間的に幅広く捉えられていた。 年表は、食品公害の原点とされる森永ひ素ミルク事件の被害者の動き、政策の動き等を中心に作成した。それ以外には日本のカネミ油症事件の推進法制定後の年表、台湾油症事件に関する年表を作成し、掲載した。なお資料としてカネミ油症推進法と台湾油症ケア法を提示した。台湾油症ケア法に関しては原文提示とともに日本語訳も合わせて掲載した。 今後は、日本と台湾の油症被害構造のさらなる提示と、それを規定する各要因について、食の科技術史も踏まえたうえで展開していくことが課題となる。
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