本年度は、研究期間を延長し追加研究を行った。3名のインタビュー調査を追加し、その分析を行いこれまでの知見からの展開を行った。昨年までにはなかった知見としては、看護師たちの集まるセミナーの対話の相互作用から多様な看護ケア体験についてストーリーが展開されたが、それぞれのストーリーはそのセミナーの場から新しく立ち上がることがあり、予期しない展開となることがあった。若い看護師が看護ケアについての悩みを相談する形で、セミナーで発表していたが、一人のベテランの看護師は若い時代に経験した看護ケアについて詳しく語り、自らも同じような悩みがあったことに言及し、その当時のケアの仕方の問題点を思い出し、発表者に対してアドバイスをするという形式ではなく、自らの経験を話し、発表者との「共感」について語った。また、別の看護師は発表者の悩みとなっていた患者の反応についての解釈について、別の解釈を提示した。その異なった解釈を発表者が聞くことにより、自身が行っていたことにたいする新しい「意味付与」が与えられ、自らの看護ケアの「意義」について再認識することもあった。さらに、セミナーに参加していた哲学研究者は、人間学という大きな枠組みで、発表者がケアしていた患者の世界観や価値観について、自らの研究に基づきさまざまな一般的人間行動についての例に言及しながら「論証的に」語り、発表者の看護ケアは患者側の「心的世界」に適切なものであったとも語った。これらすべての参加者たちからの多様なストーリーは、その場でしか生まれないものであったと考えられる。その意味でも、文献など書かれたものの分析にはない「オーラリティ」から生まれるダイナミックさの重要性が認識された。
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