東日本大震災とそれに伴う福島原発事故は、被災地福島の市民意識と政治構造をどのように変化させるのか、本研究はこの問いを有権者に対する質問紙調査、地元の政治家や団体への聞き取り調査によって明らかにするものである。 本年度は、とくに地元の政治家や団体への聞き取り調査を中心に行った。その前段階として、福島県議会および福島市議会の議事録を通覧し、その傾向について検討を行った。原発事故後の1年は、議会でも事故関連の質疑がかなりの割合を占めていた。2年目以降はその数が減少し、5-6年目になるとかなり頻度が少なくなっていた。 そのうえで、福島市議会を中心に聞き取り調査を行った。市民意識の調査においては、政治に対する不信感、他者に対する一般的な不信感が増しているという変化がみられた。一方、政治の側においてはそれほど大きな変化は生じていないようである。原発事故後1~2年ほどは、保守―非保守という従来の政治的対立はほとんど表面化せず、事故への対応を党派を超えて行っていこうという姿勢が強かった。この点は、福島県および福島市、郡山市という県内主要都市で共通する傾向である。しかし、次第に脱原発、放射能の健康影響を重視する非保守側の主張が通りにくくなっていく。すなわち、一時的に「機会」は開かれたものの、構造を変化させるには至らなかったということである。 しかし、まったく変化がないというわけではない。今もなお、国―地方という対立が顕在化しうる要素が多く残されている。本研究の目的にそい、より長期的に経過をみていきたい。
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