研究課題/領域番号 |
25380711
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 日本福祉大学 |
研究代表者 |
後藤 澄江 日本福祉大学, 社会福祉学部, 教授 (60247674)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 参与観察調査 / 国際情報交換 / 比較レポートの作成 / ヒアリング調査 / 文献収集 |
研究概要 |
本研究課題に関連した資料の収集を進めるとともに、名古屋市の地域委員会第2回モデル調査や地域委員会研究会メンバーとして参与観察を実施した。さらに、ロスアンゼルス市地域エンパワメント局のネイバーフッドカウンシル担当者との国際情報交換を行った。 資料収集に関しては、英米の地域住民組織の再構築やコミュニティ・エンパワメント政策に関連する文献を主な対象とした。英国については、1990年代から、「パリッシュ」や「グッドネイバー」等に関する資料を継続的に収集しているが、それに加えて、ブレア政権以降の社会的包摂のためのコミュニティ・エンパワメント政策についての文献を収集した。米国については、コミュニティ・エンパワメント政策の全国的動向を把握できる資料を収集した。また、名古屋市地域委員会委員として、第1回モデル実施(2009-2010年)の検証に引き続き、予定通りに第2回モデル実施期間(2013-2014年)の支援と予算や評価に関わることができた。加えて、モデル地区の地域委員会会議の傍聴、地域委員会予算で実施された活動の見学や地域委員会委員に対するヒアリング調査等を進めた。さらに、ロスアンゼルス市地域エンパワメント局のネイバーフッドカウンシル担当者との間で、それぞれの地域組織についての比較分析のレポートを作成する等、電子メールを媒体とした情報交換を行った。 なお、本研究課題に関連するものとして平成24年度に執筆した「地域エンパワメントとコミュニティ・オーガニゼーション」(福祉社会学会編『福祉社会学ハンドブック:現代を読み解く98の論点』(中央法規2013)に収載)が刊行された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、社会的包摂の視点から、日米英の大都市でのコミュニティ・エンパワメントをめぐる政策と実践について分析することである。とくに、名古屋市での「地域委員会」導入の社会実験を米国・ロスアンゼルス市での「ネイバーフッドカウンシル」の10年のあゆみと比較検討することで、日本の大都市において、「条件不利家族」や社会的に孤立している人を包摂する地域コミュニティ醸成のための政策と実践の課題を明らかにすることである。 平成25年度に本研究が順調に進展した背景には、名古屋市の第2回モデル実施において、名古屋市役所担当者の理解をいただき、全面的な参与観察の機会を得ることができたことである。それによって、市役所・区役所担当者、各地区地域委員会委員、各地区住民の3者それぞれの立場からの地域委員会の位置づけ方や運営方法を把握することができた。加えて、ロスアンゼルス市地域エンパワメント局のネイバーフッドカウンシル担当者からの依頼をきっかけとして、電子メールでの数回の情報交換を経て、地域委員会と「ネイバーフッドカウンシル」についての比較分析のレポートを作成することができたことである。憲章を根拠とした「ネイバーフッドカウンシル」が全市レベルで設置されているロスアンゼルス市では、各地区のネイバーフッドカウンシル委員選挙等において社会的包摂の視点が重視されていることが明らかとなり、それらを分析することで、名古屋市での「地域委員会」モデル実施をめぐる支援方法や評価指標の示唆を引き出すことができた。また、本レポートを翻訳して名古屋市地域委員会担当部局にも提出したことで、名古屋市における今後の地域委員会制度設計に参照されるものと期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
以下の諸点を重視しながら、今後の研究を推進したい。 第1に、名古屋市の「地域委員会」第2回モデル実施について、平成25年度に収集・作成した資料・記録の分析をおこない、社会的包摂の視点から、それを踏まえた検証を試みることである。第2に、名古屋市の「地域委員会」第2回モデル実施地区の委員や住民に加えて、当該実施地区で社会的に不利な条件を抱えた家族や個人に対する支援活動を行っているNPO担当者やいきいき支援センター(地域包括支援センター)のソーシャルワーカー等にもヒアリング調査を実施することにより、「地域委員会」に社会的包摂の視点を導入するための課題を複眼的に分析する。第3に、これまでに収集した英米の地域住民組織の再構築やコミュニティ・エンパワメント政策についての関連文献を整理・分析することで、大都市における地域住民組織が果たすことができる社会的包摂の機能について、さらなる検討を進めることである。 上記の取組と並行して、「大都市における地域住民組織の再構築によるコミュニティ・エンパワメント政策は、果たして、社会的に不利な条件を抱えた家族や個人を包摂する地域コミュニティの醸成をもたらしているのか。それとも、そのような家族・個人への新たな疎外経験の付与に結びついているのか。」という本研究の論点への回答を引き出すうえで有効な、ロスアンゼルス市「ネイバーフッドカウンシル」への訪問調査等、国内外の地域でのヒアリング調査を実施する。
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次年度の研究費の使用計画 |
第1年次である平成25年度は、名古屋市地域委員会委員としての調査活動に焦点を絞る必要が生じたこと、また、ロスアンゼルス市担当者との情報交換が先方からの働きかけで予定よりも早く実現したこと、そして、電子メールでの情報交換で可能であったこと等によって、ほとんど旅費や人件費・謝金を使用しないで実施できた。旅費や人件費・謝金を必要とする国内外での地域訪問調査、ソーシャルワーカー等の専門職からのヒアリング調査や情報交換のための学会・研究会参加については、平成25年度の積み残し分も含めて平成26年度・平成27年度に使用することに変更した。 平成26年度は、平成25年度に予定していた分も含めて、国内での地域訪問調査や情報交換のための研究者訪問や研究会参加のための旅費、また、学会等での成果報告のための旅費、さらに、専門職や研究者へのヒアリングへの謝礼等の使用を予定している。 ロスアンゼルス市等の国外における調査や対面での情報交換については、平成26年度中もしくは平成27年度前半に実施予定で検討中である。
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